第27回参院選(7月3日公示・20日投開票)は、政権与党の自民、公明両党にとって近年稀に見る熾烈な選挙戦となる――。
非改選議員と併せて自公で過半数という石破茂首相(党総裁)の公言した目標が達成できないなら、石破氏は退陣を余儀なくされる。政治家の発言は、覆水盆に返らず。特に、ネーションリーダーの言葉は重い。昨秋の衆院選で負け、先の東京都議選で負け、参院選でも負けたら、ワン・ツー・スリー・アウト、攻守入れ替わるチェンジしかない。連立政権のパートナーである公明党も結党以来、最大の危機に瀕している。都議選では8回続けてきた全員当選を逃し、党本部を置く新宿区(南元町=通称「信濃町」)と創価学会の故池田大作名誉会長出生地の大田区(旧東京府荏原郡入新井町=現在の大森北)で落選し、党勢低迷が顕著となった。同党支持母体の創価学会も厳しい状況にある。とりわけ、同会活動の原動力とされる旧婦人部(現女性部)の高齢化が際立つ。公明党は昨年10月衆院選で直前の9月に就任したばかりの石井啓一代表を含め8議席減らし(大阪で確保していた4小選挙区すべてを失った)、比例代表でも600万票を割り込むなど敗北した。2005年9月総選挙で比例区が過去最高得票の約898万票を獲得したが、今昔の感である。自民、公明両党はともに昨年10月の衆院選と6月22日の都議選で大敗を喫し、衆院少数与党の座に追い込まれた。よって石破氏は、たとえ参院選で自公過半数を維持できても、少数与党から脱却のためにいずれ連立の組み替えに踏み切らなければならない。
こうした中で、自民党内ではこれまで密やかに協議されてきた参院選後政局の焦点である「ポスト石破」を巡る動きが表面化してきた。トリガー(引き金)となったのは、6月18日夜に東京・赤坂の料亭「佐藤」で行われた麻生太郎党最高顧問と岸田文雄前首相の会食である。麻生氏はかつて麻生政権の農水相だった石破氏が自分に反旗を翻したことを今なお許していないが、この間、岸田氏が石破政権を支えるスタンスを強めつつあることに危機感を覚え、岸田氏に声掛けしたとされる。麻生・岸田会食では参院選の見通しや連立組み換えまで意見交換した。重要なのは岸田氏が、選挙結果に拘わらず麻生氏が「石破降ろし」に同調することはないとの感触を得たとされることだ。▶︎
▶︎その後の岸田氏の公然活動が際立つ。翌日昼、昨年1月に旧岸田派解散を宣言して党内の脱派閥の流れを作ったご本人が、何と林芳正内閣官房長官、小野寺五典政務調査会長、松山政司参院自民党幹事長ら同派約30人を集めて「かつての仲間をしっかり応援しよう」と呼びかけたのだ。そこまでやるのか、と驚き且つ呆れた。次は日本経済新聞社主催のイベント。24日に開かれた「NIKKEI創薬エコシステムサミット」で講演した。「高齢化が進む日本では創薬を成長産業に育てるべき」が岸田氏発言の肝である。一方の石破氏は26日午後、首相官邸で製薬企業や新興企業、ベンチャーキャピタル、研究機関から約30人が参加する「創薬力向上のための官民協議会」の初会合を主宰した。言わずもがなだが、岸田、石破両氏の言動は連動している。
少々、取材すれば直ぐに解は見つかる。6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」に盛り込まれた自民党政調会提言がキーワードである。先立つ5月19日に永田町の党本部で開催された社会保障制度調査会(会長・田村憲久元厚労相)と創薬力の強化育成等に関するPT(座長・大野敬太郎政調会副会長)の合同会議で一致した「日本市場の競争力環境の強化が不可欠」の認識の下で、「真のグローバルファーマ」育成を目指すというのだ。ちなみに田村氏は安倍晋三政権下の岸田政調会長時代の会長代理であり、旧石破派(水月会)のメンバーでもある。人脈が繋がる。そこに原点が求められる。おそらく医薬品業界の構造転換が秘めたテーマであるはずだ。具体的には「OTC類似薬」(カウンター越しに買える薬品)。巨額マネーが動く、まさに成長産業である。
これも措いて先述のタイムラインに戻る。石破氏は29日夜、東京・紀尾井町のホテル・ニューオータニの日本料理店「千羽鶴」に岸田氏を招いた。両氏は選挙後の政治日程にまで踏み込んだ腹合わせをしたという。他方、18日会食から外された茂木氏は30日夜、ホームグラウンドである東京・四谷の料亭「りゅう庵」で麻生、岸田両氏と会食している。この席では3者の状況共有があり、茂木氏は「次」を事実上、断念したのではないか。ここに登場する「政局秋の陣」のメインプレイヤーは自公で参院過半数維持の見立てで一致している。だが、結果は蓋を開けてみなければ分からない。