対米関税交渉の責任者である赤澤亮正経済再生相にとって8回目の正直になった――。
赤澤氏は7月22日午後3時20分(米東部時間・日本時間23日午前4時20分)、ホワイトハウスの隣にある米財務省でスコット・ベッセント財務長官との会談にこぎ着けた。 この赤澤・ベッセント会談では、トランプ米政権が7月7日に書簡で日本、韓国など14カ国に通知した新たな相互関税率のうちの対日税率25%の引き下げを巡る最終協議が行われた。注目された自動車関税25%の税率引き下げやコメを含む米農産品の輸入拡大などもテーマとなり、日米ウインウインとなる着地点を探った。そして赤澤氏は会談終了間際に、ベッセント氏から「実はこの後、大統領が会われる」と告げられた。午後5時過ぎ、赤澤氏は山田重夫駐米大使、荒井勝喜経済産業省通商政策局長ら随行員と共にホワイトハウスを訪れてオーバルルーム(大統領執務室)でドナルド・トランプ大統領と面会した。本格的な日米関税交渉が始まったのは4月。最初の訪米時の16日にサプライズで面会して以来のことである。さぞかし感極まったはずだ。
そして日米両政府は、8月1日が期限の相互関税発動の25%を15%にして、さらに日本産業界に多大な影響を与える自動車への追加関税25%を半分の12.5%に引き下げ、既存の2.5%を合わせた15%で最終決着した。よって日本が対米貿易巨額黒字国の中で関税交渉基本合意した最初の国であり、追加関税税率の最も低い数値である。米ドジャースの大谷翔平選手が21日午後(米西部時間)、本拠地で先発したツインズ戦の1回表に先頭打者ホームランを打たれたものの、その裏に自らがセンターバックスクリーンに超特大ホームランを放ち、投げても最速99マイル超えをマークするなど二刀流を如何なく発揮したことに、決して負けない快挙と言っていい。
では、与党の自民、公明両党は第27回参院選で歴史的な敗北を喫したが、石破茂首相(総裁)の責任問題はどうなるのか。「55年体制」発足後初めて衆参両院で少数与党となった自民党は改選議席52が13減の39、公明党も改選議席14が6減の8となり、自公合わせた47議席は非改選議席75を加えても参院過半数125に3議席届かない。筆者が信を置く自民党幹部は投開票から一夜明けた21日夜、徳俵に足がかかった石破氏が同日午後2時からの記者会見で「比較第一党の責任は重い」と言い募り、続投宣言したことを、以下のように表現した。「一命をとりとめICU(集中治療室)に搬送された状態にあり、緊急措置が上手くいけば一般病棟に移れます。でも、そうなるのかどうか……何とも言えません」――。▶︎
▶︎現実に即して言えば、昨年10月の衆院選、今年6月の東京都議選、そして今般参院選の3連敗はまさに命に関わる瀕死の重傷である。一般病棟に移る前に無理を承知で退院したが、もちろん満身創痍に変わりない。石破氏が直面する危機はタテヨコ十文字どこからも批判の矢が飛んでくるため、アクロバティックな防御と且つ力技でもってしか躱せない。即ち、党内で唯一無二の「ディールメーカー(交渉人)」である森山裕幹事長を必要とする。投開票の20日夜、辞任の意向を示した同氏を押し切って党執行部全員を留任させた(河野太郎選対委員長代理は例外)。そもそも投開票日の20日午後4時過ぎ、NHKが独自調査「自民35+公明8=43議席」を官邸に報告したとの未確認情報が永田町の一部で流れた。
その後、追い打ちをかけるように新たな「今夜首相退陣表明・8月1日総裁選実施」情報が続いた。即ち、事実上の政権選択選挙だった参院選の敗北で退陣表明→早期の総裁選実施は、自民党分裂の事態もあるとの危機感を党内要路の実力者に浸透させたのである。ある意味で「息継ぎの時間が必要」というコンセンサス作りである。それだからこそ石破氏は23日、党本部で歴代首相の麻生太郎、菅義偉、岸田文雄各氏と会談し、誼を通じた上で暫時の続投を図ろうとしている。一方、岸田政権当時の閣僚・党幹部であった佐藤勉前総務会長、御法川信英国対委員長代理、古川禎久総務相、萩生田光一経産相、齋藤健経産相各5人は22日昼、東京・永田町のキャピトル東急ホテル「星ヶ岡」で会合した。
そして「民意に従い政権を野党に渡すべし」で一致し、森山幹事長にその旨を伝えた(同メンバーの木原誠二官房副長官は欠席)。石破氏は今「進むも地獄、退くも地獄にある」(投開票日前夜に側近4人組が語った言葉)にしても、心が折れることを知らない同氏に「強力な援軍」が現れた。想起して欲しい、冒頭の大統領執務室における光景を。赤澤氏を迎えたトランプ氏の背後に、マルコ・ルビオ国務長官、ベッセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官の3人が揃い踏みで控えていたのだ。トランプ氏が上機嫌であることの証である。「石破首相 退陣へ―月内にも表明」(読売新聞23日付夕刊)報道は果たして本当なのか。石破氏の正面強行突破戦術が頓挫する可能性は、未だ五分五分と言っておくべきだろう。