自民党総裁選は9月22日に公示され、小泉進次郎候補(農林水産相)の出陣式は同日正午過ぎに東京・永田町の衆院第1議員会館地下1階の大会議室で開催された。 自民党衆参院議員295人の3分の1に近い92人(秘書らによる代理出席を含む)が蝟集した。3日前の小泉選対本部(本部長・加藤勝信財務相)発足式が78人(代理とオンライン出席を含む)だったので14人増えた。事実、5陣営の出陣式の中で最も賑わった。
そして締めくくりの慣例エイエイオーコールで44歳の小泉氏(無派閥)の両脇に前回総裁選を争った69歳の加藤氏(旧茂木派)と62歳の河野太郎前デジタル相(麻生派)が並んだことは、小泉陣営が「老壮青」→維新・松井元代表を大臣に?失言しなければ誕生する「小泉進次郎政権」の人事を大胆予想する!「挙党態勢」→「最有力」を演出できたと言っていい。永田町では早くも「バンドワゴン効果」(勝ち馬に乗る現象)を指摘する声が過半を占めるようになった感が強い。小泉氏は同夜、公示後初めて他の4候補の小林鷹之元経済安全保障相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安全保障相とテレビに生出演した。テレビ東京の看板番組「ワールドビジネスサテライト(WBS)」だ。MCは元日経ビジネス編集長の山川龍雄テレ東解説委員であり、同番組は経済政策を中心に討論した。昨年9月の総裁選からも分かるように、小泉氏の不安材料はただ一つ。討論会での応答で相手の鋭い質問には言葉が詰まり言いよどむ、答えに自信がないとテーマをはぐらかす場面が少なからずあった。前回総裁選では日本記者クラブ主催の公開討論会を会場で傍聴したが、そうした場面を目の当たりにした。
だが、件のWBSを観ていた筆者は、一年を経て小泉氏はそれなりに成長したのか、山川氏がまさに「ジャパン・プロブレム(日本問題)」である解雇規制問題について質すと、雇用流動性を高める必要性を海外との比較を交え淀みなく詳細に答えたので驚いた(もちろん、ネット上ではボロクソに批判されているのは承知している)。小泉氏周りを深堀取材してみて、分かった事がいくつかある。もともと同氏は「磁力の政治家」である。人を惹きつける磁力がある。と同時に、来る人は拒まない。故にその交通整理が大変である。それは措く。経済人ではキヤノングループの御手洗冨士夫代表取締役会長(元経団連会)、楽天グループの三木谷浩史代表取締役会長(新経済連盟代表理事)、SBIホールディングスの北尾吉孝代表取締役会長と密接な関係を構築している。昨年の総裁選初出馬・敗北を通じて、「先物買い」なのか経済界エスタブリッシュメントからの小泉アプローチが極めて増えている。そうした中で、政策的な観点から現在の小泉氏周辺で発言力を強めている経済人の存在に気づく。転職サイト最大手・ビズリーチ創業者の南壮一郎ビジョナル代表取締役社長(49歳)。米名門タフツ大学数量経済学部・国際関係学部の両学部を卒業。プロ野球の楽天イーグルスの球団創設メンバーでもある同氏が、実は小泉氏に解雇規制に風穴を開けろと発破をかけた張本人とされる。金銭面でのパトロンでもあるようだ。 ▶︎
▶︎では、肝心な票読みである。小泉氏が第1回投票で国会議員票は2位に50票以上の大差をつけて過半数を制する可能性はゼロではないが、常識的には小泉vs高市の決選投票となる。
だが、初っ端から看過できない事が起こった。まさに22日の午後、東京・永田町の自民党本部で行われた各候補の所見発表演説会での高市氏発言である。冒頭に「奈良の女」「大和の国育ち」を強調した上で、「奈良公園のシカ暴行」に言及した。「(外国から観光に来て)奈良のシカを蹴り上げ、殴って怖がらせる人がいる。日本人が大切にしているものを、わざと痛めつけようとする人がいるとすれば、行き過ぎている」と述べ、外国人対策問題に引き寄せたのだ。SNS上で炎上したのは言うまでもない。小泉陣営も複雑な思いでこのニュースに接したに違いない。総裁選最終日までまだ9日間ある。その間に失言・食言してしまうことを何としてでも阻止することが小泉氏周りの最重要命題だ。総裁選後はノーサイドとなる。故に主要閣僚・党役員人事に関心が集中する。林氏との決選投票となると、林氏の副総理格外相が有力視される。今日までの公開討論会やテレビ出演での発言を聞く限り、外交・安全政策での茂木氏の安定感・信頼性が抜群である。茂木外相の確率が高い。同氏後見人の麻生太郎党最高顧問にも朗報となる。
最大の関心事は、小泉官邸を取り仕切る官房長官は誰なのかである。常識的には「チーム小泉」司令塔の木原誠二選対委員長である。ただ、齋藤健前経済産業相の起用もゼロではない。その場合、木原氏は政調会長か、幹事長である。連立拡大に関わる野党との協議では、小泉氏の後見人でもある菅義偉元首相の日本維新の会との歴史的な密接な関係から、次のようなウルトラCが考えられる。すなわち同党が求める「副首都構想」実現のため、同党に今なお影響力がある松井一郎元代表を副首都構想担当相に迎える。ハッキリしているのは、小泉政権誕生で世代交代が進み、政策エキスパートを適材適所に起用することで、長期政権も夢ではないということだ。