10月21日に召集される臨時国会の衆参院本会議で行われる首班指名選挙で自民党の高市早苗総裁が第104代内閣総理大臣(首相)に選出されるのは確定的である。連立のパートナーである公明党(斉藤鉄夫代表)が連立政権からの離脱を表明したのは10日午後の自公党首会談後のことだった。事前に同党の離脱説が囁かれていたが、一気呵成に斉藤氏が完全野党化宣言するとまで予想していた永田町ウォッチャーは皆無に近い。
その後も、唯一の与党・自民党を軸に野党第1党の立憲民主党(野田佳彦代表)以下、日本維新の会(藤田文武共同代表)、国民民主党(玉木雄一郎代表)に公明党(斉藤代表)が新たに加わり首班指名を巡る駆け引きが続く。仮に高市総裁の首相指名を目指す自民党の単独政権となれば、衆参院ともに少数与党の現状から高市政権の先行きは極めて不安定になる。それでも高市氏は4日の新総裁選出後の記者会見で言明した「全世代総力結集」に強く拘泥している。自民党執行部人事は概ね、麻生太郎副総裁・鈴木俊一幹事長に象徴されるように、高市総裁実現の最大功労者である麻生氏の言うがままになった。
だが、負けず嫌いの高市氏は閣僚人事では「自分らしさ」に拘っている。読売新聞(14日付朝刊)の1面に「小泉氏、防衛相へ調整―高市氏、首相なら林氏は総務相」の見出しを掲げた記事が掲載された。<防衛相に小泉進次郎農相(衆院当選6回)、総務相に林芳正官房長官(衆院2回・参院5回)を起用する方向で調整に入った。外相には茂木敏充元幹事長(11回)を充てる方向だ>と、同記事にあった。それまで小泉防衛相説は耳にする噂話程度であった。さすがに「読売」も今度は自信を持って報じたはずだ。本稿では、小泉防衛相可能性大を前提に進める。
さて、筆者はかつて講談社の月刊誌『現代』に長文論考「小泉純一郎と岸信介の比較研究」を寄稿している。小泉首相絶頂期の頃だ。今、思い起こすのは同稿で言及した、1960年代の自民党にあって「政界の寝業師」「生き字引」と言われた松野頼三元総務会長(故人)にロングインタビューした際に聞きだした話である。小泉純一郎元首相の父であり、進次郎農林水産相の祖父である小泉純也元衆院議員のことだ。純也氏は第3次池田勇人改造内閣及び第1次佐藤栄作内閣で、防衛庁長官を務めた。「国会の安保男」の異名を取った、今で言う安全保障政策のプロとして当時知られた。岸信介元首相とは派閥を超えた安保政策の上で同志であり、国会では60年締結の日米安保条約推進者であるだけではなかった。小泉純也の国会演説は自民党戦後史に残る名演説だったと、故松野氏は筆者に繰り返し語った。高市氏が、敬して止まない安倍晋三元首相の祖父・岸信介と、総裁選を戦った小泉進次郎氏の祖父・小泉純也が、安全保障を介して繋がっていたことを承知して「小泉防衛相」を検討しているのであれば、筆者は少々、高市評価を見直さなければなるまい。
それは措いて、現実政治に戻る。前回コラムで21日に誕生する高市官邸の主要人事がなかなか決まらないと書いた。その理由の一つは、高市氏の霞が関人脈が乏しいことだ。
だが、それには例外があり、知る者は殆どない。高市氏の持つ総務省人脈を、筆者は「総務省四羽烏」と名付けた。高市氏は第2次安倍改造内閣から第3次安倍第2次改造内閣(2014年9月~17年8月)、第4次安倍第2次改造内閣(19年9月~20年9月)の延べ4年間総務相を務めた。特に注目したいのが、第3次内閣総務相時代の①黒田武一郎自治財政局長(1982年旧自治省入省)、②原邦彰自治財政局調整課長(88年)、③松田浩樹自治行政局地域政策課長(89年)、④大沢博自治財政局交付税課長(90年)の4人である。現在、黒田氏は宮内庁次長、原氏が総務事務次官、松田氏は内閣府審議官、大沢氏が消防庁長官だ。黒田氏は次期宮内庁長官の最有力候補、原氏は将来の内閣官房副長官(事務)説が取り沙汰される。高市次期首相にも数少ないが、官僚人脈は総務省に存在したのである。だが、自身が総務相も経験した菅義偉元首相のように「大官房長官」時代に築いた総務省人脈とは異なり、高市氏には同省人事への影響力はない。それは他省庁もほぼ同じだ。
こうして見てみると分かるように、高市氏は確かに熱い想いと集中力はあるが、政局観TPO(時・場所・場面)に欠けることから、早くも高市政権は2026年度政府予算成立の来年3月末までに行き詰まるとの見方が浮上する。その逆に突破口となり得るのは、28日午後に行われるドナルド・トランプ大統領との日米首脳会談かもしれない。アドリブ力がある高市首相は意外とケミストリーが合うと見る向きが在京外交筋に少なくない。果たして如何に。