11月28日夕、首相官邸で高市早苗首相を議長とする政府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が開かれた。 高市首相が高く掲げる「新技術立国」は、その旗を新たに国家運営の中核へと引き上げる政策転換の雄たけびでもある。経済成長や危機管理に欠かせない分野を政府が総合支援することによって企業や研究機関の民間投資を引き出す官民連携を目指す。高市氏はかねて、成長戦略の肝は「危機管理投資」であるとしてきた。高市首相をはじめ、木原稔内閣官房長官、小野田紀美経済安全保障相(兼科学技術政策担当内閣府特命相)、林芳正総務相ら関係閣僚が出席したCSTIで、2025年度から5年間の科学技術政策の指針となる「科学技術・イノベーション基本計画(科技計画)」が決定した。日本の安全保障の強化を念頭に、経済安全保障上の重要性が高い技術を「国家戦略技術」として新たに指定する。そこには①人工知能(AI)・先端ロボット、②量子、③半導体・通信、④バイオ・ヘルスケア、⑤核融合、⑥宇宙の6分野を指定し、研究予算の配分や税制上の優遇措置で重点的に支援する。「新技術立国」実現に向けた動きが活発だ。10月28日、高市首相とドナルド・トランプ米大統領との首脳会談にメディアの注目が集まる中、内閣府では小野田科学技術政策担当相がマイケル・クラツィオス米科学技術政策局(OSTP)局長と会談したのだ。
改めて言うまでもなくトランプ氏の「関心」は、日米関税合意で日本側が約束した5500億ドル(約80兆円)の対米投資実行に尽きる。まさにこの日米合意は国家戦略技術6分野における企業や研究機関の民間投資を引き出すインセンティブにもなるのだ。内閣府の福永哲郎科学技術・イノベーション推進事務局統括官が夏前からOSTPと交渉、日米首脳会談に合わせて閣僚会談を実現させた。冒頭のCSTI向けに経済産業省イノベーション・環境局が作成した「研究開発税制」に関する小冊子には次のような記述がある。《日本として重要な技術領域を戦略技術領域と特定し、その領域の研究開発を重点的に後押しするため高いインセンティブを付す「戦略技術領域型」(仮称)を創設すべき》。そして具体策をこう続ける。《「科学とビジネスの近接化」の時代に、各国は国家的に重要な技術への投資を強化中。我が国も重要な戦略技術領域を特定し、高いインセンティブ(控除率40%・別枠控除上限10%)で重点的に後押しすべき》。
要は、税制上の優遇措置を実施すべきというのだ。日本の公的支援割合は7.7%で、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国平均11.3%をはるかに下回る。ちなみに韓国10.6%、アメリカ9.1%。研究開発税制の改正すべき点は、特に高い研究力を持つ研究拠点を特定し、産学連携を後押しするようなインセンティブを高めることだ。さすれば産業界からの投資を得て成長できる。▶︎
▶︎これまで当たり前のことができなかった。だが、変化の兆しはある。当該局長の菊川人吾首席スタートアップ創出推進政策統括調整官はかつて内閣官房に出向し、IT総合戦略室次長やデジタル庁統括官付参事官経験がある。注目に値するのは菊川局長直属の大隅一聡研究開発課長の存在だ。旧通商産業省が経産省に衣替えした翌02年に東京大学大学院新領域創成科学研究科を修了後、技官職で採用された逸材である。19年には所管する国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の米シリコンバレー事務所長に就任。同省で最もシリコンバレー事情に通じる。
なぜ、かくも経産省主導の「国家戦略技術」に固執するのか。もちろん、理由がある。26年の半導体市場は1兆ドル目前の9754億ドル(約151兆円)になる。この間、米半導体大手エヌビディアに代表される巨大テックによるAIに使う桁外れなデータセンター巨額投資競争が、メディアをにぎわしている。一連の報道の中で筆者の目に留まったのは、国内新興のSakana AI(サカナAI)が国内外の投資家を引受先とする第三者割当増資で200億円を調達したことを報じた日本経済新聞11月18日付の記事だ。国内最大のユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上報局(CIA)系のVC部門であるインキューテル(In-Q-Tel)も資金を投じた、とある。場企業)となった。同記事にはサカナAIの技術力を評価した米中央情
くしくもほぼ同時期に読んだダン・ブラウン氏の最新刊『シークレット・オブ・シークレッツ』に「悪役」としてインキューテルが登場する。法制上、CIAから独立した非営利組織インキューテルはさまざまなスタートアップに対し、「創業段階で必要となる研究開発や経営体制の強化から、事業化段階で必要となる設備投資等まで、一貫して支援する」(経産省小冊子の分析)。CIAは何と四半世紀前の1999年に、先端ITを取り込むためにインキューテルを設立していたのだ。「シリコンバレーの英雄」とされる著名投資家のピーター・ティール氏が創業したパランティア・テクノロジーズも初期段階で資金支援を受けている。高市首相は10月24日の所信表明演説で、次のように語っている。「強い経済の基盤となるのは優れた科学技術力であり、イノベーションを興すことのできる人材です。科学技術・人材育成に資する戦略的支援を行い、新技術立国を目指します」。そういえば、高市氏の初入閣は第一次安倍晋三内閣の内閣府特命相(科学技術政策・イノベーション担当)であった。原点が、「科技」なのだ。
