第51回衆院選で戦後初めて自民党が単独で衆院(定数465議席)の3分の2(310)を超える316議席を得る歴史的圧勝をもたらしたのが、高市早苗首相(総裁)自身であることに異議を唱える者はいない――。
高市氏は投開票日の8日夜、NHKを筆頭に民放各社の選挙特番に出演した。その中で筆者が注目したのはニッポン放送とのインタビューで、3月19日の日米首脳会談でドナルド・トランプ大統領に南鳥島(東京都小笠原村に所属する小笠原諸島の島で本州から約1800㎞離れた日本の最東端)沖のレアアース(希土類)採取への参加を呼びかけると語ったことだった(注:筆者は同ラジオ中継を聴いていたのではなく、翌9日の新聞報道で知った)。
だが思い起こしてみれば、日米両政府はすでに、昨秋10月のトランプ大統領来日時に自動車から戦闘機まであらゆるものに使われるレアアース供給確保に関する枠組み協定に署名していた。世界最大のレアアース産出国である中国を視野に、日米を含む各国の動きは日を追うごとに活発化している。事実、衆院選只中の2月4日午前(米東部時間)、トランプ米政権はレアアースなどの重要鉱物資源の安定供給に向けて、米国務省のロイ・ヘンダーソン・カンファレンスルームで日本、欧州連合(EU)など55カ国・地域が参加する初の閣僚級会合を開催した(日本から堀井巌外務副大臣・参院議員が出席)。マルコ・ルビオ国務長官の開会の挨拶後、J・D・バンス副大統領は演説の中で、レアアースを大量供給して圧倒的な世界シェアを誇る中国を念頭に、「外国産が市場にあふれると価格が暴落する。投資家は撤退し、(各国の採掘)計画は頓挫する」と指摘し、最低価格制度を設けた「貿易圏」構想に言及した上で、次のように語った。「自由で公平な競争が維持され、各国の鉱山業者、精製業者、投資家はすべて上向く」。会議を主催したルビオ国務長官は記者会見で名前を明かさなかったが、具体的な制度設計は米通商代表部(USTR)のジェイミソン・グリア代表が統括し、米国家安全保障会議(NSC)のデビッド・コプリー重要鉱物政策担当上級部長(大統領特別補佐官)が米側の省庁横断協議と対外交渉の責任者であると、米国務省のホームページに記載されている。
要は、重要鉱物を経済的な威圧に使う中国に依存しないサプライチェーン(供給網)の確立を同盟・同志・友好国に呼びかけたのだ。4月上旬にトランプ氏が中国を国賓訪問する前というのが肝要である。この米主導で実現した閣僚級会合直前の1月31日夜、高市首相は来日したキア・スターマー英首相と官邸で会談した。やはり衆院選序盤に設営された日英首脳会談の主要テーマもまた、威圧行動を繰り返す中国への認識共有を前提にした重要鉱物の供給網強化など経済安保協力であった。筆者の手元に某官庁が作成したレアアースに関する未公表資料がある。先ず、「重要鉱物のサプライチェーンリスク①」に記述された【レアアース】(永久磁石、モーター=電気自動車・自動車・ロボット、電子・電気製品など)、【コバルト】(電気自動車・携帯電話などのリチウムイオン電池正極材、特殊鋼)、【リチウム】(自動車のバッテリー、ノートパソコン等のモバイル用電源)、【ニッケル】(電池材料、ステンレス鋼、特殊鋼=LNGタンク・自動車・船舶等)は、それぞれの採掘・製錬の両方か、いずれかも中国が30~80%を占め、輸入する日本はコバルトとニッケルを除きその殆どを中国に依存している実態を示す。次の「同②」の【ガリウム】(LED・レーザーなど光デバイス、パワー半導体、レーダーなど高周波デバイス)、【ゲルマニウム】(PETボトル製造時の触媒、光ファイバー用添加剤、ダイオードなど)、【黒鉛】(バッテリーの負極材に活用)、【アンチモン】(樹脂難燃助剤、鉛蓄電池、特殊鋼等)、【タングステン】(超硬工具=自動車の部品)は、それぞれの生産の60%超を中国が占め、輸入する日本が80%前後を中国に依存していることを明らかにしている。▶︎
▶︎我が国がレアアースなど重要鉱物資源を中国にこれほど依存していると知り、驚いた。頭では理解しているつもりだったが、驚愕仰天の数字を突き付けられると、言葉を失う。同資料には「経済安全保障推進法に基づく供給確保計画(重要鉱物)」、「レアメタル等国家備蓄制度」、「国際連携による取組」などの現状分析・提言だけでなく、この間に日本を取り巻く国際情勢激変のタイムラインが詳述されている。その中で我が国にとっての重大事態となったのが、年初の1月6日に中国商務部が発表した日本向けデュアルユース(軍民両用)品目の輸出管理強化措置である。何と管理リストは1100品目に及ぶ。そこには、航空宇宙、防衛関連分野、高温用途で広く使用されている先述のコバルトの他にサマリウム、さらに高性能磁石、ロボティクスなど精密製造に不可欠な重レアアース(テルビウム、ジスプロシウム)の日本向け輸出が厳格な審査対象になる可能性が高い。
平たく言えば、高市首相が昨年11月7日の衆院予算委員会で「台湾有事は存立危機事態」と発言したことへの報復だ。要は習近平国家主席の逆麟に触れたのである。習指導部は今や、高市政権の対中スタンスが米国に同調する段階から対中封じ込めに手を貸すレベルに大きくカジを切ったとみなしている。このデュアルユース品目の輸出規制強化は、高市政権に対し日中貿易摩擦が長期・深刻化するだけではなく、これ以上の防衛費増額や防衛装備品輸出規制緩和を含む対米軍事コミットを深めれば、日本経済と産業が甚大な打撃を被ることになるぞとの警告なのだ。国際社会では、トランプ政権のベネズエラ電撃攻撃によるマドゥロ大統領拘束が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、北朝鮮の金正恩労働党総書記、中国の習主席(共産党総書記)ら専制主義者を震撼させたとの見方で一致する。
だが、筆者が信を置くチャイナ・ウォッチャーは、このベネズエラ作戦が逆に習氏を、日本を含む東アジア周辺国に対しより強硬な行動に駆り立てていると指摘する。ますます3月の高市・トランプ会談が日本にとって重大事となった。
