少々、前のことである。1月22日午後、首相官邸2階大ホールで、政府の日本成長戦略会議の「戦略分野分科会」の初会合が開かれた。高市早苗政権の1丁目1番地と言うべき「17の戦略分野における危機管理投資・成長投資の促進で力強い経済成長の実現」を担うのが日本成長戦略本部(議長・高市首相)である。AI(人工知能)・半導体、造船、量子、航空・宇宙など17の戦略分野ごとに、官民連携での投資の内容や規模、実現に向けた政策を議論する分科会を設置する。そして今春までに投資工程表(ロードマップ)をとりまとめる。
先ず、組織概要から説明する。戦略分野分科会は、分科会長:尾崎正直内閣官房副長官(政務)、分科会長代理:阪田渉内閣官房副長官補(1988年旧大蔵省)、構成員:木村聡内閣官房日本成長戦略本部事務局長代理(90年旧通商産業省)、阿久澤孝内閣府規制改革推進室長(91年旧大蔵省)、泉恒有内閣府政策統括官(経済安全保障担当・92年旧大蔵省)、前田努財務省官房総括審議官(同年旧大蔵省)、辺見聡厚生労働省政策統括官(総合政策担当・90年旧厚生省)、畠山陽二郎経済産業省経済産業政策局長(92年旧通産省)、中野憲幸防衛省官房サイバーセキュリティ・情報化審議官(96年旧防衛庁)。政策通で知られる分科会長の尾崎官房副長官も旧大蔵OB(91年 )であり、元高知県知事である。こうして見てみると分かるように、日本成長戦略会議の中核組織である戦略分野分科会メンバーは圧倒的に財務(旧大蔵)官僚が多い。
ところが、同日の決定事項1項目に次の記述がある。「(戦略分野)分科会の庶務は、経済産業省その他の関係行政機関の協力を得て、内閣官房において処理する」。続いて「前三項に定めるもののほか、分科会の運営に関する事項その他必要な事項は、分科会長が定める」。「経済産業省」という固有名詞があるのは、内閣官房に置く本体の日本成長戦略本部事務局の木村事務局長代理(実態は事務局長)が中心となり、官民投資のロードマップに盛り込むべき内容を詰めているからだ。官民投資に関する検討の大枠は、17分野における分野別ワーキンググループを立ち上げて、以下の3段階によって進めていく。【目標】当該分野の現状認識と目指す姿→【道筋】勝ち筋の特定と官民投資の具体像、定量的インパクト→【政策手段】官民投資促進に向けた課題と政策パッケージ――のプロセスを採る。では、その17戦略分野を挙げる。①AI・半導体、②造船、③量子、④合成生物学・バイオ、⑤航空・宇宙、⑥デジタル・サイバーセキュリティ、⑦コンテンツ、⑧フードテック、⑨資源・エネルギー安全保障・GX、⑩防災・国土強靭化、⑪創薬・先端医療、⑫フュージョンエネルギー、⑬マテリアル(重要鉱物・部素材)、⑭港湾ロジスティクス、⑮防衛産業、⑯情報通信、⑰海洋――。
この17分野の各分科会それぞれにワーキンググループ(WG)が新設されて、WG長には内閣府特命相や当該省庁大臣が就き、WG長代理には同副大臣及び政務官が据えられる。構成員は各界から起用される。4つの具体例を挙げる。▶︎
▶︎①AI・半導体=WG長:小野田紀美内閣府特命相(人工知能戦略)、赤澤亮正経済産業相、WG長代理:鈴木隼人内閣府副大臣、井野俊郎経産副大臣、構成員:伊藤錬Sakana AI共同責任者COO(最高執行責任者)、松尾豊東京大学大学院工学系研究科教授、小池淳義ラピダス社長、時田隆仁富士通社長CEO(最高経営責任者)など②造船=WG長:金子恭之国土交通相、小野田紀美経済安全保障相、副座長:村山英晶東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授、構成員:大橋弘東京大学大学院経済学研究科教授、吉本陽子三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員、鈴木一人東京大学公共政策大学院教授など③量子=WG長:小野田紀美内閣府特命相(科学技術政策)、WG長代理:鈴木隼人内閣府副大臣、構成員:伊藤公平慶應義塾塾長、遠藤典子早稲田大学研究院教授、波多野睦子東京科学大理事・副学長、鈴木一人東京大学公共政策大学院教授、松岡智代QunaSys COOなど⑮防衛産業=WG長:赤澤亮正経済産業相、小泉進次郎防衛相、構成員:岩間陽子政策研究大学院大学教授、岩村有広経団連常務理事、遠藤典子早稲田大学研究院教授、江藤名保子学習院大学法学部教授、大矢光雄東レ代表取締役社長、島田太郎東芝代表取締役社長執行役員CEO(日本防衛装備工業会会長)、鈴木一人東京大学公共政策大学院教授、安永竜夫三井物産代表取締役会長(日本貿易会会長)など構成員は、まるで「産学協同」のお手本のようだ。それは措く。17分野の各分科会WGメンバーを具にチェックして気づいたことがある。鈴木一人教授が上述3分科会WGの他に港湾ロジスティクス分科会WGにも名前を連ね、計4分科会WGの構成員を務める。異例と言っていい。国際政治学、国際経済学、宇宙安全保障を専門とする鈴木氏は、立命館大学国際関係研究科博士課程退学後、英サセックス大学で欧州研究所博士課程修了(現代欧州研究/国際関係でPh.D取得)というキャリアで、珍しい非東大卒の東大教授である。アカデミアのオールラウンドプレイヤーだ。高市首相の生命線である「強い日本経済」の成否を握るのが日本成長戦略会議(高市首相以下閣僚8人と有識者構成員12人)である。同会議有識者メンバーの中で、鈴木氏はコアメンバーと言っていい。鈴木氏は、同12人中のPwCコンサルティング上席執行役員・チーフエコノミストの片岡剛士氏と波長が合うと聞く。さらに鈴木、片岡氏に加えた細川昌彦内閣官房参与(産業政策・経済安全保障担当。明星大学経営学部教授)の3人は頻繁に会食するなど気脈を通じている。経産省出身(77年旧通産省)の細川氏は、通商政策局米州課長時代に当時の高市通産政務次官(小渕恵三政権)との接点が出来たという。因みに、AI・半導体と量子の両分科会WG長代理の鈴木副大臣も経産省OB(2002年旧通産省技官採用・東京大学大学院工学系研究科修士課程修了)である。
ハッキリしていることは、内閣府所管の科学技術・イノベーション推進事務局、人工知能戦略専門調査会と経産省商務情報政策局所管の半導体・デジタル産業戦略検討会議が内閣官房に設置された日本成長戦略会議を全面支援することだ。「産学癒着反対!」などと拳を振り上げて叫ばれていた時代は遠い昔になってしまったのである。
