高市早苗首相は4月13日夕、官邸4階の大会議室で令和8年第4回経済財政諮問会議(議長・高市首相)を開催し、「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針2026)」策定及び予算編成の在り方の基本見直しについて議論をした。同諮問会議の民間議員4人(筒井義信経団連会長・日本生命特別顧問、永濱利廣第一ライフ資産運用経済研究所首席エコノミスト、南場智子DeNA代表取締役会長・創業者、若田部昌澄早稲田大学教授・前日銀副総裁)は同日、連名で提言を発表した。提言は経済諮問会議開催前に、<資料1>の「骨太方針2026の策定に向けて」(A4版2枚)と<資料2>の「予算編成の在り方の抜本見直しに向けて(基本原則の提案)」(A4版2枚)が出席者に配布された。同日夕に所管する内閣府記者クラブに配布され、新聞各紙は14日付朝刊で報じている(日経新聞は「積極財政 検証機能を提言―諮問会議の民間議員、規律求める―首相『市場の信認確保』」の見出しで報道)。この資料は同諮問会議所管の城内実内閣府特命相サイドから送付してもらった。
ここからが本題で、記述されている中身について言及したい。<資料2>の冒頭に次のように書かれている。《…3月10日の日本成長戦略会議において、高市総理は、17の戦略分野における官民投資ロードマップの具体化を進めるとともに、その成長戦略が実現する強い経済の姿を定量的に示し、日本成長戦略会議と経済財政諮問会議が連携しつつ、骨太方針を含む今後の経済財政運営に反映していくよう指示した。…さらに、債務残高対GDP比を安定的に引き下げていく中でも可能となる財政規模を精査し、危機管理投資・成長投資などに活用するため、別枠で管理する方策を検討することを指示している》僅かこの6行のフレーズの中に高市氏が記者会見などで頻繁に遣う言葉「強い経済」「危機管理投資」「成長投資」が盛り込まれ、さらに積極財政批判をかわすべく「債務残高対GDP比を引き下げていく中で財政規律を精査する」と記述されている。同資料のその後段にある以下の記述が筆者の目に留まった。《また、3月26日の経済財政諮問会議における海外有識者の議論からも、》として4点の指摘が紹介された上で、こう続く。《…必要なのは、単純な緊縮でも野放図な拡張でもなく、投資と規律を両立するコントロール可能で中期的な財政運営である。こうした方向性を踏まえれば、……今後さらに具体的に詰めるべき論点も多い。
そこで、今後の具体的な検討を進める上での指針として、以下の基本原則を提案する》そして同資料のコアである<原則>が5つ示された。「原則1:財政運営の中核目標として、債務残高対GDP比の安定的な低下を目指す」、「原則2:物価・賃金を的確に反映しつつ、経済の成長力強化と名目の経済規模の拡大にふさわしい予算編成に転換」、「原則3:危機管理投資・成長投資のための『新たな投資枠』を創設」、「原則4:補正依存から脱却し、恒常的な施策は当初予算に計上」、「原則5:不確実性に備えるとともに、コミュニケーションの強化を通じて市場の信認を確保」。<原則5>に関わる提言は、上述した<資料1>の「骨太方針2026の策定に向けて」の作成方針最終パラグラフにある《…骨太方針に込められた高市内閣の経済財政運営の考え方、いわゆる「サナエノミクス」が、国民や市場関係者を含む内外からの理解と共感を得ていくことが求められる。そのため、従来からの概要資料だけでなく、簡潔で分かりやすく、メッセージ性のある説明資料の作成、機動的・戦略的な広報の実施が必要》に結びつくのである。▶︎
▶︎要するに、筒井、永濱、南場、若田部の4民間議員は、高市政権の表看板である「責任ある積極財政」を上書きするには財政の持続可能性を実現し、市場からの信認を確保することが不可欠だと言っているのだ。敢えて上述の文言からキーワードを挙げれば、「内外からの理解と共感を得る」ではないか。そこで見落としてはいけないのは、3月26日夕に官邸で開かれた経済財政諮問会議に招かれて意見を開陳した2人の米経済学者の発言内容である。米マサチューセッツ工科大学(MIT)のオリヴィエ・ブランシャール名誉教授と米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授(オンライン出席)だ。朝日新聞(4月20日付朝刊)オピニオン欄「記者解説(Commentary)」に原真人編集委員が辛口の長文記事を書いている。「甘い構想 学者から警鐘」の小見出し付きのパートで次のように指摘した。《会議事務局は当初、高市政権が描いている路線に著名学者たちのお墨付きを得ようともくろんでいたようだ。国債の追加発行も辞さず、危機管理投資を増やし、経済成長によって税収を増やす。そんな「お手盛り」構想である。
ところが2人の学者が発したのは甘い構想への苦い忠告だった。ブランシャールMIT名誉教授は「危機管理投資は重要だが明確な財政的収益が見込めない。成長を押し上げるかもしれないし、そうでないかもしれない。それだけを根拠に国債を財源とすることを正当化できない」とクギを刺した》 一方、会議翌日の日経新聞(3月27日朝刊)で《(ロゴフ教授は)金利が上昇局面にあることから、PB(基礎的財政収支)の赤字をゼロに近い水準に保つべきだと主張した。…債務残高のGDP比を下げる余地を確保すべきだと訴えた》と報じた。2人の米経済学者発言の「肝」を引用する朝日、日経両紙の視座(立ち位置)が大きく異なることが判って興味深い。
さて、肝心の高市首相。最新の世論調査で読売新聞(4月17~19日実施)の内閣支持率:前月比5㌽減の66%、不支持率:4㌽増の24%、朝日新聞(18~19日)の支持率:前月比3㌽増の64%、不支持率:2㌽減の24%だった。均すと、内閣支持率65%・不支持率24%である。自民党支持率は各社調査の殆どが30%台で高止まりしているのに対し、内閣支持率は軒並み2~3㌽下落しているとされる。そうだとしても読売、朝日両紙平均が65%は、政権発足半年後の現時点で決して悪い数字ではない。
だがしかし、高市官邸にとって看過できないのが、4月半ばに全国各地で行われた首長選挙で自民党推薦の現職・新人候補が相次いで落選していることである。麻生太郎副総裁の地元・福岡県嘉麻市、森英介衆院議長の地元・千葉県東金市、木原誠二元選対委員長の地元・東京都清瀬市、長坂康正厚労副大臣の地元・愛知県あま市、上野賢一郎厚労相の地元・滋賀県近江八幡市、栗原渉厚労大臣政務官の地元・福岡県朝倉市など各市長選で敗北した。自民党が推薦・支持を出した13市長選のうち7つの選挙で敗れた。都内など都市部での自民連敗も際立つ。高市人気は地方選で必ずしもプラスに作用しないということが証明された格好だ。来春の統一地方選を控えて党内からマジ顔で不安を漏らす声が上がり始めたという。コミュ力がない、好き嫌いが激しい、独断が多い、事前の根回しがない、など批判の声が上がる高市首相。だが、ご本人はいささかも動じていないという。まさにマーガレット・サッチャー元英首相も顔負けの「Iron Lady(鉄の女)」なのだ。
