5月14日午前、ドナルド・トランプ米大統領は、北京市内の天安門広場西側にある人民大会堂で中国の習近平国家主席(中国共産党総書記)と会談する。世界の耳目を一身に集めるトランプ・習近平会談で、いったい何が話されるのか、そして何が決まるのか――。
その前に言及しておくべきは、トランプ氏の同行者である。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の記事「The Subtle Messages Sent by Who Is, and Isn’t, Joining Trump in Asia」、英ロイター通信、米金融・経済専門テレビチャンネルのCNBCまで報道各社の記事をチェックして判明した同行者は、以下の通り。世界最大の航空宇宙機器開発製造会社ボーイングのケリー・オルトバーグ最高経営責任者(CEO)、世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEO、PayPal・テスラ・スペースX・xAI創業者で世界一金持ちのイーロン・マスク氏、世界最大の石油・天然ガス企業エクソンモービルのダレン・ウッズCEO、世界最大の投資会社ブラックストーンのスティーブン・シュワルツマンCEO、世界最大級金融機関シティグループのジェーン・フレイザーCEO、世界有数の金融機関ゴールドマン・サックス(GS)のデービッド・ソロモンCEO、多国籍テクノロジー企業アップルのティム・クックCEO、半導体世界最大手NVIDIAのジェン・スン・フアンCEO、半導体製造大手クアルコムのクリスティアーノ・アモンCEO、最大手カード会社VISAのライアン・マキナニーCEO――等々の米経済界重鎮18人の揃い踏みである。実は格別の興味を抱く夫妻が、大統領随行経済人グループの中にいる。トランプ一族のビジネス帝国を統括する次男エリック&ララ・トランプ夫妻である。エリック氏はトランプ・オーガニゼーション副社長、米FOXニュースチャンネル「My View with Lara Trump」司会のララ氏は元共和党全国委員長。
ちなみに、トランプ・オーガニゼーションのビジネスは、不動産、ホテル、ゴルフ場、リゾート開発・経営、金融、暗号資産事業など多岐にわたる。語源がギリシャ語のkleptes(泥棒)とkratos(支配)に求められる英語「kleptocracy」(クレプトクラシー)という単語がある。トランプ氏は「極左」と忌避するが、リベラルとして名高いバーニー・サンダース米上院議員(バーモント州選出)が4月22日、トランプ・ファミリーが大統領職を通じて40億㌦(約6300億円)の利益を得ており、そのうち最大部分に当たる30億2000万㌦(約4760億円)は暗号資産(仮想通貨)事業によるものだと、X(旧ツイッター)に詳細な内訳を投稿し、この蓄財を「クレプトクラシー」と断じた。サンダース氏は、ロイター通信、ブルームバーグ通信、雑誌「フォーブス」の調査報道を基に収支一覧表を作成し、サウジアラビアなど湾岸諸国との取引による4億2580万㌦のほか、弁護士費用、フロリダ州の私邸「マーラ・ラゴ」、その他の事業収益も含まれていると説明した。具体例はこうだ。暗号資産(仮想通貨)関連の数字は、主に3事業に由来する。すなわち、①仮想通貨ベンチャーのWorld Liberty Financial(WLFI)、②ミームコイン「$TRUMP」、③ステーブルコイン「USD1」だ。「USD1」は市場で最大級のステーブルコインの一つへと成長し、2026年4月段階で時価総額51億㌦に達した。スティーブ・ウィトコフ中東担当特使の息子ザック氏は、大統領の長男ドナルドJr、件の次男エリック氏共々、首都ワシントンのジョージタウン地区で高級会員制クラブ「Executive Branch」共同経営者でもある(既報)。トランプ・ファミリーが関与するWLFIが発行する仮想通貨が5月上旬になって不審な取引が指摘され、発行後比で9割安の大暴落している。では、なぜトランプ氏は次男夫婦を「個人の資格」と称するも、随行団の一員に加えたのか。中国でもそう遠くない将来にファミリービジネスを展開するため「顔見世興行」として同行したのだろうか。それは、十分にあり得る。
しかし筆者は、少々異なる見方をする。英紙フィナンシャル・タイムズのワシントン駐在外交記者エドワード・ルース氏の最近のコラムは絶好調だ。FT(5月5日付)記事「The age of the American Pharaoh-It would be strange if dynastic succession were not on Trump’s mind」(米国の古代エジプト王ファラオの時代―トランプの頭に王朝継承がなかったら奇妙なことだ)を興味深く読んだ。≪現実の世界では、トランプが精神障害やその他の理由で部下たちによって排除される可能性は殆どない。しかしトランプの批判者たちは、彼の自己ブランド化の狂気を認知機能低下の証拠として挙げている。実際には、トランプの行動は一貫している。彼はいつも自分の名前を物事に載せてきた。彼の見解では、それは良いビジネス慣行である。▶︎
しかしそれは自己中心以上のものなのだろうか?TDS(トランプ精神錯乱症候群)と非難される人々は、まだ建設されていないランドマークが取り壊される瞬間をすでに楽しみにしている。しかし臨床的な正確さから見れば、トランプのファラオ的な夢を助長する者にはTDSが割り当てられる。……トランプが自己賛美以上の何かを考えていると疑う根拠はある。名前を永久に残すための最良の方法は、同じ名前の後継者を手配することだ≫ やっとルース氏コラムの結論が見えて来た――。「同じ名前の後継者」とは、平たく言えばトランプ一族の誰かを指す。トランプ氏の子供たちをチェックする。元モデルのメラニア・トランプ(3番目の妻・2005年―現在)との男子バロン(20歳)、元テレビパーソナリティのマーラ・メープルズ(2番目の妻・1993年―99年結婚)との女子ティファニー(32歳)、元モデル・実業家のイヴァナ・トランプ(最初の妻・1977年―92年結婚)との男子ドナルドJr(48歳)、女子イヴァンカ(44歳)、男子エリック(42歳)。バロンは若すぎるし、ティファニーは歌手である、イヴァンカはビジネスマインドがあり才能豊かだが、主人ジャレッド・クシュナーとの子ども3人の家庭ファーストで後継不適格だ。由ってドナルド・トランプJrかエリック・トランプのいずれかとなる。先述のルース氏は記事中に「ポリマーケット」(世界最大の予測市場プラットフォーム)による2028年の共和党指名獲得率を紹介している。J・D・バンス副大統領39%、マルコ・ルビオ国務長官21%、元FOXニュースのアンカーで最近トランプ批判を強めているタッカー・カールソン氏が6%、トランプJrは4%で、エリックは泡沫候補並みの1%だ。それでもルース氏は記事で特にトランプJrが過小評価されているとし、一族の中で弟エリック氏と比べても最も父親を喜ばせたいと思っている上に、トランプ氏がコントロールしやすい後継候補と断じる。≪バンス、ルビオ両氏はJrとエリック兄弟よりも遥かに有能であるが、トランプ氏がホワイトハウス入口のカギを渡した後も忠誠を尽くすことは期待できそうもない。
結局、残るのは彼の息子の一人である。トランプ氏の最近の自称の嵐は、単なる遺産を狙う者以上にみえる。彼の多くの自尊心プロジェクトは、実を結ぶまでに何年もかかる。2月にトランプ大統領は、民主党がワシントンのダレス空港とニューヨーク(NYC)のペンシルベニア駅を自分の名前に改名すれば、NYCの2つのインフラプロジェクトの資金凍結を解除すると提案したが断られたと憤慨した。この種の事例は数えきれないほどある≫ そしてルース氏記事の最後は、こう締め括られている。≪トランプは君主制の華やかさを好み、独裁者の権力を渇望しているとよく言われる。先週、彼は英国の国王チャールズ3世を迎えた。来週、彼は中国の「終身国家主席」である習近平のゲストとなる。見落とされているのは、王位継承への彼の敬意である。トランプの壮大な野心を考えれば、王朝を考えないのは奇妙だ。≫(What seems overlooked is his admiration for royal succession. Given Trump’s monumental ambitions, it would be strange if dynasty were not on his mind.) 要は、トランプ氏が18人の米財界有力者を同行する中で、次男エリック夫妻を随員の一員に加えたのは何も仮想通貨ビジネスの中国展開を企図しているのではなく、トランプ王朝の有力後継候補を習近平王朝の国王にお目もじ頂くためだったのではないか。その伝で言えば、トランプ王朝のスコット・ベッセント財務長官は漢王朝の劉邦(高祖)の「漢の三傑」と称された張良に当たるか。13日に北京でトランプ大統領一行に合流して14日午前に人民大会堂で行われる習近平国家主席との米中首脳会談は同席する。“米国版張良”ベッセント氏が北京入りに先立って、11日に東京に立ち寄り、翌12日午前から夕方にかけて片山さつき財務相→赤澤亮正経済産業相→高市早苗首相→茂木敏充外相と政府首脳との会談を総なめした。
その後、ベッセント氏は同日午後7時から東京・赤坂の在日米国大使公邸(マッカーサー・ハウス)に日本経済界トップ30人を招き、対中国政策における「日米連携」を念頭に会談重視の夕食会を主催した。3メガバンクのトップ(三菱UFJフィナンシャル・グループの亀澤宏規執行役会長、三井住友銀行の福留朗裕頭取CEO、みずほFGの木原正裕社長CEO)、商社トップの他にトヨタ自動車の近健太社長、野村證券HDの奥田健太郎社長CEO、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長ら錚々たるメンバーが集結した。ベッセント氏は「日本が米国の同盟国群の最後のアンカーである」という証文を手にして、首脳会談では大統領の左隣に着座するはずだ……。
