フランス東部エビアンで6月15~17日に開かれた先進7カ国首脳会議(G7エビアン・サミット)に出席した高市早苗首相に関する話題は、それほど大きなニュースにはならなかった。サミット開催前、在京外交記者団の中に、今回G7サミットはドナルド・トランプ米大統領とマーク・カーニー加首相との間で国際情勢を巡り大論争となり、焦点のホルムズ海峡封鎖解除(開放)後の防衛策を準備していた仏英独伊4カ国連携が進展。米国が孤立無援となって、トランプ氏が退席どころか帰国すると言いかねない「暴発」懸念があった。そのような「緊急事態」が発生した際にはトランプ氏お気に入りの高市氏になだめ役を果たしてもらわなければ、首脳宣言を発出できないだけでなく、インド、ブラジル、韓国、カタールなど「招待国の首脳」に顔が立たないと議長国のエマニュエル・マクロン仏大統領はかなり神経質になっていたという。
いざ蓋を開けたら、傍若無人で知られるトランプ氏は拍子抜けするほど終始穏やかに振る舞い、暴言・失言の類は全くなかったとされる。仏大統領府が繰り返し言明してきたように最終日の17日にパリ南西のベルサイユ宮殿にトランプ氏だけを招き晩餐会を開く「特別扱い」が奏功したと言う向きも少なくない。トランプ氏が暴発しなかった理由は、実は同時期の関心事がイランとの戦闘終結合意であり、すべてに優先して当面の海峡管理・核開発問題でのディール(取引)に傾注していたからだ。トランプ氏は自身の誕生日でもあるサミット開催前日の14日(日本時間15日午前)、SNSに「皆さん、おめでとう。金曜日(19日)の署名をもって海峡が開き、石油が再び流れ出す」と投稿した。予測不能のトランプ氏の頭の中は「イラン・ホルムズ海峡」で占有されていて、エビアン・サミットに関心を向ける余裕がなかったというのが真相である。では、高市首相の出番は全くなかったのか。筆者はサミット開催最終日17日午後、在京仏人ジャーナリストからメールを受け取った。
そこには、実に興味深いことが記されていた。「フランスで有名な経済ジャーナリストのドミニク・スーがMCを務めるラジオ番組L’ édito éco(月~木曜日:朝7時45分から)で驚きの発言があった」とあり、以下にスー氏発言箇所のトランスクリプション(仏語)が続いている。直ちに、その友人に当該箇所の英文起しの送付を頼んだ。件のMCは番組で、次のように語った。<……私が得た情報によると、(G7エビアン・サミットのマクロン大統領主催の)月曜夕方のディナーでドナルド・トランプと日本の首相の間で衝突が起きました。トランプはイラン攻撃が速やかに成功した事を自賛しつつも、再び1941年の日本による真珠湾(パール・ハーバー)攻撃に例えました。それは失礼以外の何物でもない。(マクロン氏は同じテーブルの)他の者たちのざわつきを鎮め、落ち着くよう求めました> 「再び」とスー氏が述べたのは、3月の日米首脳会談で高市氏がトランプ氏に対し「世界中に平和をもたらせるのはドナルド(・トランプ大統領)だけだ」と語った際の、ホワイトハウスでの会見で同行のテレビ朝日記者が質問した内容を掌握していたからだろう。
すなわち、イラン空爆前になぜ同盟国に知らせなかったのかと問われたトランプ氏はこうかわした。「奇襲について日本よりわかる国があるのか?真珠湾についてなぜ教えてくれなかった?」。まさにリターンエースだった。気に入らない質問には目くじら立てて怒り狂う同氏だが、テレビのショー番組司会を永年やっていたこともあり、自信があれば瞬時に切り返すのだ。この点では悔しいかな、超人的であるのを認める。肝心なことは、仏ラジオ番組での指摘が事実だったのか、どうかである。▶︎
▶︎筆者は、この情報を入手後、官邸、外務省など各方面に事の真偽を質したが、隠ぺいしている気配はなく、当てた3人の方々全員が「そんな話、聞いていない」という反応だった。うちの1人はメディア関係者であるが、さすがにパリ特派員も現地スタッフも早朝のラジオ番組までカバーしていませんと言う。たとえジョークのつもりでトランプ氏が真珠湾奇襲に例えたなら、晩餐会に相応しくない会話であると、高市氏はその場で厳しい文言でなくても窘めるべきだったということになる。このフランス側から降って湧いた話が事実であり、日米で厳しい緘口令を敷いているのであれば、と頭の片隅をかすめるが、今日に至るまで日本側を含めて続報はうんともすんとも言わない。どうやら誤報ということになるのか。
さて、当の高市首相である。「文春砲」が繰り返す高市事務所の「中傷動画疑惑」はボディブローで効いていると言っていい。ここで紹介する高市内閣最新の読売新聞世論調査(6月19~21日実施)と共同通信調査(20 ~21日)で、真逆の結果となった。「読売」が前回比5㌽増の69%、「共同」は5.5㌽減の55.8%である。共同調査では、昨年10月の政権発足以来、最低の支持率となった。報道各社の調査は概ね低落傾向にある。自民党支持率も同様である。そこで筆者が注目するのは、高市氏が異常とも言える傾注ぶりの「重要広範議案」の今通常国会会期中(会期末7月17日)の成立である。それは、国会閉会後の7月末には内閣改造と自民党役員人事の断行を意味する。人事で求心力回復というオーソドックスな手法だ。
だが、永田町の一部に8月15日に日本武道館で行われる全国戦没者追悼式は、天皇皇后両陛下の出席と天皇のお言葉、三権の長である首相の式辞以下、衆参院議長、最高裁判所長官の挨拶のほか、閣僚、衆参院議員、各界代表など多くが参列する。その中には初入閣の10人の政治家が含まれ、その中の7人が地方選出議員であり、保守地盤の自民党議員地元後援会への報告が必須の行事である。その機会を奪うことになる同式典前の内閣改造はないとの見方に説得力があった。しかし高市氏は、皇室典範改正法案、再審制度見直し法案、国旗損壊処罰法案、国家情報会議(局)設置法から連立相手の「維新」と交わした連立合意文書に明記した衆院定数削減法案(副首都機能整備推進法案は自民党内に反対論が多く難航)まですべてを、会期延長無しで上げると息巻く。さすがの鈴木俊一幹事長も「一言」あるはずだが、「総理の意向」として従う姿勢を示している。今や「天下無敵」の高市氏に異を唱える者はいない。
