7月中旬までに発表された米大手金融機関の2026年4~6月期決算は、各社ともに投資銀行業務が軒並みに好調で、増収増益を確保した。 米銀最大手JPモルガン・チェース(ジェイミー・ダイモン最高経営責任者CEO):同期純利益が前年同期比41%増の211億㌦(約3兆3000億円)。株式取引での収入が9割増と全体をけん引した。米金融大手シティ・グループ(ジェーン・フレーザーCEO):純利益が前年同期比45%増の58億3100万㌦(約9400億円)。外為取引などのトレーディング収入や投資銀行が好調で増収増益を確保。米金融大手ゴールドマン・サックス(GS。デービッド・ソロモンCEO):純利益が前年同期比78%増の66億2800万㌦(約1兆750億円)。大型新規上場(IPO)に伴う株式引き受けなど投資銀行業務が絶好調だった。
ここでなぜ、米金融大手を取り上げるのか。もちろん、理由がある。それもとくにJPモルガン、シティG、GSの「ウハウハ3社」である。そして、この米金融大手には共通項がある。ソフトバンクグループ(SBG。孫正義会長兼社長)と極めて近い関係なのだ。6月24日のSBG株主総会を控えた同10日、筆者は、日本経済新聞の記事「ソフトバンク、外銀が伴走―海外でAI、案件巨大に―JPモルガンの融資1.1兆円で首位」を読んで初めて知った。株主総会招集通知で明らかになったとして、同記事冒頭は次のよう書く。<融資額の首位はJPモルガン。前年の2位から順位を上げ、融資額は前年比2.4倍の1兆1028億円となった。前年に首位だったみずほ銀行は1兆533億円と1.6倍に増えたが、2位に下がった。上位10行の残高に占める外銀比率は3㌽増の64%となった>孫氏率いるSBGの投資先が将来に新規株式公開(IPO)を行う時に株式を引き受けることで収益を拡大させると期待する投資銀行は、瞬く間にSBGへの融資額を肥大化させた。今やSBGの借入先の上位ベスト5は、①JPモルガン、②みずほ、③三井住友、④GS、⑤三菱UFJと様変わりした。
そして、モルガンのダイモン氏ら外銀首脳が相次いで孫氏に直接連絡してくるようになった。その象徴が、高市早苗首相が訪米した3月19日(米東部時間)夜に米ホワイトハウスで開かれたドナルド・トランプ大統領主催の歓迎夕食会でのワンシーンである。首相挨拶「I am back!」の後、高市氏がトランプ氏にエスコートされて主賓テーブルの大統領右隣に着席せんと屈んだところを正面右からカメラが撮った際、大統領左隣に座る満面笑みの孫氏をフォーカスしていたのだ。まるで撮られるアングルを計算にいれていたかのように。その後は、昨年9月に日米両政府が合意した5500億㌦(約90兆円)の対米投資に、またしてもJPモルガンやシティGなど、米最大手銀行が資金供給グループに参加することが判明した。対米投資第2弾として、ガス火力発電所・次世代原発建設の12兆円を米銀2行と我が国際協力銀行(JBIC)が連携して融資する。JBICの参加は、米銀の融資分を日本貿易保険(NEXI)が保証するということである。▶︎
▶︎これまでの日米関税交渉のプロセスで俎上に載る対米投資案件とは別に、2024年末以降、大々的にAI・半導体関連プロジェクトでアドバルーンを上げたのは、一貫して孫氏=SBGだった。そのSBG傘下のソフトバンクなどが経産省と組んで国産AIの開発に乗り出すという。孫氏のビジネス手法にかつて煮え湯を飲まされてきた経済産業省は一時期、同氏を「ホラ吹き」と呼ばわりしていた。
だが、ここに来て一変した。それが、経済産業省(藤木俊光事務次官)主導の「国産AI連合」の誕生である。<国産の人工知能(AI)基盤の実現へ官民プロジェクトが動き出す。経産省は30日、最大1兆円規模の支援事業の対象にソフトバンクなどの企業連合を選んだと発表した。米中がAI開発で先行するなか、技術主権の確立を狙う>(日経新聞7月1日付朝刊記事のリード全文)。 記事冒頭に言及されたように、AI開発の基盤はSBG傘下のソフトバンクとホンダ、NECとソニーグループの4社を中核に設立された会社「Noetra(ノエトラ、旧日本AI基盤モデル開発)」と、同省が所管する産業技術総合研究所(産総研)が共同で手掛ける。Noetraへの出資企業は日立、富士通、日鉄、川重工、村田製作所、3メガバンクなど44社に及ぶ。
そもそも国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」に採択されたので、1兆円の予算が付いた。オールジャパンなのだ。それは、ほんの7週間前の事だ。これまた日経新聞(6月9日付朝刊)である。同紙4面の政治・外交欄に「AI『純国産は非現実的』―自民が提言、製造業や医療に集中促す」の見出しを掲げて、<…自民党デジタル社会推進本部AI・Web3小委員会(平将明委員長)が、あらゆる領域で「純国産」を目指す従来戦略の再考を求めた>と報じているのだ。この記事にもあるように、日本は米中から周回遅れどころか逆立ちしても追いつけないから、間違ってもキャッチアップなんて口にするな――というのがAI関係者の共有する認識だったはずでは?と、筆者は声を大にして問いたい。
いや、それでは自身の知見の無さを披歴しただけだ。最後はファクト・ベース。これで分かるはず。経産省商務情報政策局(野原論局長・1991年旧通産省)内に「チーム奥家」と呼ぶべき強者たちがいる。メンバーは、奥家敏和同局審議官(95年)をヘッドに、金指壽同局総務課長(98年)、渡辺琢也情報技術利用促進課長併デジタル経済安全保障企画調整官併AI産業戦略室長(04年)、南部友成情報産業課長併高度情報通信技術産業戦略室長(02年)である。金指、渡辺両氏は東京大工学部卒業の技官採用。南部氏は昨年までJETROニューヨーク事務所産業調査員(奥家氏もNY産業調査員を歴任)。彼ら「チーム奥家」が、Noetraの社長となった丹波廣寅SBG執行役常務を始め民間企業各社のエンジニア・専門家から産総研の研究者、さらには海外で「AIのゴッドファーザー」とされる著名なコンピューター学者と交渉を重ね、このプロジェクト参画に同意を得たという。最先端の学術研究と基盤モデル開発への貢献者は少なくない。密かに進めてきた同プロジェクトが花咲くことを期待したい。 筆者にレクしてくれた経産省中堅の秀逸な幹部は最後に小声で言った。「このプロジェクトにはもちろん、リスクはある。懸案のラピダスも同じです。要は、Nothing ventured, nothing gained.(果敢に挑まなければ、何も得られない)ですから」。得心しました。
