「ミドルパワー」との連携を深めよー短期的な課題に忙殺される高市政権。日本外交は「ポスト・トランプ」を見据えた「先読み力」が問われる。9月、高市早苗首相が行った内閣改造で永田町ウォッチャーが一様に驚いたのは、簗和生農林水産相人事であった――。
今回の組閣では自民党派閥の裏金問題への関与が認定された旧安倍派議員2人が初入閣した。その一人が簗氏で、2年前、役職停止6カ月の処分を受けた。高市氏は記者会見で起用理由について、2024年と26年の衆議院議員選挙を経て「国民の審判を受けた」と説明した。しかし簗氏は今年2月の衆院選では、無所属新人の渡辺真太朗氏に敗れて比例復活で6選した経緯がある。厳密にいえば、「国民の審判」を受けていない。
さらに同性婚に強く反対し、LGBTについての過激発言「生物学的に自然に備わっている『種の保存』に背く」で知られる。高市首相とは保守的な思想信条が近く、簗氏が農政通であることを差し引いても、失言が懸念された。それゆえ答弁での失言・食言によって国会審議の中断を引き起こす第一候補になりうると、筆者が主宰するニュースレター『インサイドライン(9月25日号)』で警鐘を鳴らした。
簗氏は、選挙区内の市と町の道路予算を削減させた疑惑だけでなく、有権者のシャトルバス送迎、さらには運動員の買収疑惑まで噴き出し、10月14日夜になって辞表を提出した。予算削減の問題発言が報じられてから約2週間。高市氏は追い込まれて更迭した。だがその判断は遅すぎた。
ここで想起するのは、『論語』の衛霊公第十五にある「子曰く、人にして遠き慮り無ければ、必ず近き憂い有り」である。高市氏が長期政権を見据え、中長期的な政策の準備をしていないとはいわない。しかし実際はとかく目先の課題の処理に追われている。このままでは、やがて短期的な小さな事でつまずくと、いいたいのである。短期と中長期の課題を切り分け、どう対処するかが問われているのが外交だ。アメリカのトランプ政権と円満・円滑な関係を深めつつ、ほかの国々からの信頼も得なければならない。中国との関係改善も求められている。
最近の動きとして、9月の首相訪米を振り返ってみよう。高市氏は国連総会演説のため渡米し、9月22日午後、トランプ米大統領と約35分間、日米首脳会談を行った。トランプ氏は中国の習近平国家主席との首脳会談を24日に予定しており、高市氏が「中国の前」に強くこだわったためだ。その実現では日本外交の「実力」を示した。一例を挙げる。山田重夫・駐米大使のトランプ政権要路へのアクセスは頻回だ。大統領最側近のミラー次席補佐官(政策担当)には食い込んでいる。同補佐官は、実は隠れ「親日派」である。この事実を知る者は霞が関にもほとんどいない。もとよりトランプ氏の高市氏好きは周知のとおりだ。高市氏が2月衆院選で想定外の大勝利を得たことは高市氏への信頼を深めたとみられる。トランプ氏は民主主義国であれ専制国家であれ、「強い」指導者が大好き。選挙での大勝は日米関係の強化に働く。▶︎
▶︎だが単純に喜んでもいられない。米中対立の先鋭化が進む中で、高市外交は日本の立ち位置の明確化を求められる。ハードパワーの大国である、アメリカvs.中国(ロシアを含む)の構図は、ウクライナ戦争の結末がどうであれ大きな変化はない。ワシントン在住の国際金融アナリスト、齋藤ジン氏によると、新自由主義下のグローバリズム終焉の反動として復活するアメリカの国家像は、①製造業・軍事力を前面に出した20世紀初頭の帝国主義型、②国家安全保障と国際通商のバランスをとる冷戦型、のいずれかに分類できるという。トランプ氏が推進するのは、①の帝国主義型だ。そして世界がアメリカ陣営と中ロ陣営に二分されるような局面になれば、日本はアメリカにつく以外の選択肢はない。
だからこそ日本外交の構想力が問われる。アメリカの暴走が続かないように、今こそ日本がオランダ、スウェーデン、韓国、オーストラリア、インドネシア、カナダ、ブラジル、アルゼンチンなどミドルパワーの民主主義国と連携して、アメリカを冷戦型のソフトパワー覇権国に導くのがベストオプションではないか。まさに「ジャパン・イニシアチブ」である。再び中国の故事を引く。前漢時代の『塩鉄論』の利議篇に収められている「言うは易く、行うは難し」である。トランプ氏は、カナダのカーニー首相が1月のダボス会議でミドルパワーの結束による新秩序構築を訴えたことに怒り心頭に発した。今も米加貿易戦争に終結のきざしはない。アメリカとEU(欧州連合)、オーストラリア、カナダなどとの緊張は続いている。日本外交はどうすべきか。日本製鉄によるUSスチール買収に象徴されるように、日本はアメリカの製造業に欠けているノウハウを提供しつつ、日米の補完関係を築くのが国益につながる。一方、アメリカ主導で進むレアアースを含む重要鉱物のサプライチェーンの再構築に対し、日本の関与も強めるべきだ。
今後は、ミドルパワー諸国のうち、豊富な資源を持ち、安定した外交関係にある、オーストラリア、カナダとの関係がより重要になるとみる。故・安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を起点とする経済安全保障(重要鉱物資源の確保、サプライチェーン強靭化、エネルギー協力など)において、両国と強固な戦略的パートナーになるべきである。こうした視点に立ち、高市氏は「ポスト・トランプ」を視野に入れて日本外交を新次元へと引き上げるべきではないか。そのためには、「先読み力」を磨く必要がある。
