菅義偉首相が行った官邸スタッフ人事の中で、この間、解けない「なぜ」が一つだけあった。 それは経済・外交政策担当の阿達雅志首相補佐官(参院議員・61歳)だった。 阿達氏のキャリアである。
東大法学部卒業後、1983年に住友商事に入社。車輌鋳鍛貿易部に所属、その後の米国駐在中にニューヨーク大学ロースクールで法学修士号を取得。帰国後は同社中国総代表室副部長(北京駐在)、法務部課長などを歴任、2000年8月に退社。
家系も華麗である。義父は佐藤信二元通産相(義祖父は佐藤栄作元首相)であり、住友商事退社翌月に佐藤信二衆院議員事務所入りした(03年から公設秘書)。
それだけではない。秘書業の傍らでニューヨークの超名門、ポール・ワイス・リフキンド・ワートン・ギャリソン外国法事務弁護士事務所(通称「ポール・ワイス」)の東京オフィスの顧問を04~14年まで務めているのだ。
因みに「ポール」以下「ギャリソン」まで5人の名字である。創始者ルイス・ワイスは、フランクリン・ルーズベルト大統領の妻、エレノアの無二の親友であり、米法曹界の大立者である。
阿達氏が半端ない米国人脈を持っていることから、筆者は、菅首相のお眼鏡にかなって官邸入りしたと推測した。 ただ、首相補佐官発令後、新聞各紙でその背景説明を目にすることはなかった。 唯一の例外は、菅首相の外交に注目する作家の佐藤優氏が「週刊東洋経済」(10月10日号)に阿達氏の履歴を紹介した上で、「阿達氏の動静も、外交のプロは注意深く観察するだろう」と、文末に書いていただけである。 少々の骨折りだが、同氏のこれまでの言動を深掘りすると、意外な側面が見えて来た。
一例のみ挙げる。先のポール・ワイス在籍中であり、佐藤氏秘書を務めながら07年と10年の参院選比例代表に出馬・落選の憂き目に遭った直後の13年1月のことだ。 米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)から英文報告書「ケーススタディ:中国南車集団」(A4版24頁)を刊行しているのである。 中国南車は同北車と15年に合併、世界最大の鉄道車輌メーカー、中国中車になり、中国高速鉄道建設を担った国営企業である。住友商事時代のキャリアを活用したのだ。
菅首相は同氏の米法曹・経済界人脈だけではなく中国のビジネス人脈にも期待しているのではないか。自民党には知られざる人材がいる証である。