11月3日付 揺るぎない「習1強」独裁

先週、11月中旬に北京に着任する垂秀夫駐中国大使(1985年入省)から話を聞く機会があった。 外務省歴代のチャイナスクール(中国語研修)のなかでも断トツとされるだけでなく、絵筆を握り、カメラを抱える同氏は趣味の域を超える異能の外交官である(因みに京都大学在学中はラガーメンだった)。 
エピソードを紹介する。今度の北京勤務は4回目である。その人脈は中国共産党中枢から人民解放軍幹部にも及び、中国公使(政治担当)時代に中国当局の「監視対象」となり、2013年本省の指示で任期途中に帰国した経緯がある。 安倍晋三首相(当時)は06年10月に電撃訪中し、胡錦濤国家主席(共産党総書記)との首脳会談で「戦略的互恵関係」を打ち出した。それまで悪化の一途を辿っていた日中関係を改善したのだ。 
当時の谷内正太郎外務事務次官(前国家安全保障局長・69年)の指示で、アジア大洋州局の秋葉剛男中国課長(現外務事務次官・82年)の協力を得て国際情報統括官組織の垂国際情報官(第三担当)が、このワーディングを考え出したのだ。 さて、肝心の垂氏の最新情勢分析である。習近平国家主席(共産党総書記)の権力基盤は脆弱であるとの見方が支配的だが、同氏は自民党政権に例えて次のように指摘した。▶︎

▶︎習氏は言わば党総裁(President)兼幹事長(Secretary-General)兼総務会長(Chairperson)であり、江沢民、胡錦濤時代と比べて、その支配力は揺るぎないものになったというのだ。 一例を挙げる。最高意思決定機関である共産党政治局の7人の常務委員は党規約上、総書記を含めて同格であった。89年6月の天安門事件後、最高指導者・鄧小平氏が築いた集団指導体制である。 ところが、習氏は17年10月の第19回共産党大会で党規約を改正して自分以外6人の常務委員に対し業務報告を提出することを義務付けた。つまり李克強首相含め6人の常務委員は習氏の「部下」になったのだ。 
江沢民時代の朱鎔基首相も胡錦濤時代の温家宝首相も部下ではなかった。だが、今や習氏は自らの名前を党規約に刻み、「習1強」の独裁者となった。 では、強いリーダー像を示し、強盛国家を標榜する習氏の今後に問題はないのか。 
実は、約370人の党中央委員と中央候補委員の共産党エリートの中には習氏の権力集中アプローチに強い不満を抱いている者が多いという。次期党大会までの2年間の中国経済次第で何かが起こる可能性がある。