来年1月20日のジョー・バイデン大統領誕生直後、米国は気候変動問題を左右するパリ協定復帰、そして中東諸国が注目するイラン核合意への復帰を果たすとされる。
イスラエルやイスラム教スンニ派のサウジアラビアなどGCC(湾岸協力会議)加盟国はシーア派大国のイラン包囲網の弱体化を懸念する。 そうした中で、中東地域の専門家はNATO(北大西洋条約機構)加盟の欧米基軸は不変であるが、「力の行使」やロシアへの接近を含めトルコの独自外交に注目している。
トルコの首都イスタンブールから飛行機で4時間圏内の地域に56カ国・人口16億人・GDP(国民総生産)24兆㌦が存在する。テヘランまで約3時間、モスクワまで約3時間、パリまで約3時間半、ロンドンまで約4時間という地政学位置なのだ。 11月13日夜、先月16日の離任まで駐トルコ大使を3年余務めた宮島昭夫駐ポーランド大使と会食・懇談した(11月15日にワルシャワに着任)。
宮島大使の最新トルコ情勢分析には説得力があった。 トルコは2023年に建国100周年を迎えるが、エルドアン大統領について概ね次のように語った。▶︎
▶︎ 18年7月、議院内閣制から実権型大統領制に移行し、名実ともに同大統領が実権を握った。欧米諸国から「強権政治」との批判を受けている。 それでも、スンニ派ムスリムのリーダーとしてパレスチナ問題を巡りイスラエル非難をする一方で、この9年間に360万人のシリア難民を受け入れ、支援を行っている。 だが、国内はコロナ禍の影響もあり、通貨リラの大幅減価、外貨準備の低下、外貨流出など経済回復は容易ではない。若年層を中心にエルドアン氏批判が高まっている。 それでも、8000万人を超える人口を有し、欧州、中東、アフリカ、コーカサスを結ぶ戦略的位置にある同国の中長期的発展のポテンシャルは極めて高い。
こうしたレクチャーを受けているうちに、06年11月に外務事務次官当時の谷内正太郎前国家安全保障局長から聞いた「自由と繁栄の弧」構想を思い出した。谷内氏がイスタンブール出張時にその戦略的要衝の重要性に気付いたとされるものだ。
菅義偉首相が安倍晋三前首相から引き継いだ「自由で開かれたインド太平洋」構想の原点と言っていい。 ナショナリズムに訴えるエルドアン外交は、核保有国・イランの今後の出方に大きく影響するということである。