12日5日号 『1月衆院解散』説がなお有力な理由

最近の菅義偉首相はすこぶる上機嫌であり、自信を増している。 12月5日閉会の今臨時国会で、懸念された衆参議院予算委員会の「日本学術会議問題」についての首相答弁を無難に乗り切ったことが大きい。 それだけでなく、以下のようなことも挙げられる。 
 ①菅首相は11月12日に行われたジョー・バデン次期米大統領と初めての電話会談で、対日防衛義務を明記した日米安全保障条約第5条が尖閣諸島(沖縄県石垣市)への攻撃に適用されるとの発言を引き出した。②15日に東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中など15カ国の首脳がテレビ会議形式で開催した会議で、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に署名した。③16日に内閣府が発表した2020年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値が前期比21.4%増となった。④16日に来日中の国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と会談し、3月に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で来夏に延期された東京五輪・パラリンピックの「有観客」開催で合意した。⑤最新の朝日新聞世論調査(14~15日実施)でも菅内閣支持率は前月比3ポイント増の56%だった(同日実施の共同通信調査も前回比2.5P増の63%)。⑥東京証券取引所の日経平均株価は好調な米国経済とGDPもあり、年初来高値を更新して19日終値が2万5634円に達した――などである。 
 先ず、外交・安全保障面から検証したい。今まさに21年度政府予算案編成のただ中にあるが、国土交通省の予算増要求の中で注目すべきは海上保安庁のそれである。 
 17日までに尖閣諸島周辺水域で中国海警局の船舶が72日連続確認されている。海上自衛隊の鹿屋航空基地(鹿児島県鹿屋市)配備の哨戒機P- 3Cは連日、尖閣諸島上空を展開、警戒活動を行っている。しかし、中国艦船の挑発行動に対し巡視船による監視以外に為すすべがない海上保安庁の危機感は頂点に達している。 
 こうした中で、米政権移行期の「バイデン発言」は中国の習近平指導部への牽制として極めて重要である。 
 同発言を引き出せたのは、事前にバイデン陣営に対して外務省(秋葉剛男外務事務次官)が働きかけたことが奏功したからだ。 具体的には、杉山晋輔駐米大使とバイデン氏の外交・安保政策責任者であり、次期大統領補佐官(国家安全保障担当)として有力視されるトニー・ブリンケン元副大統領首席補佐官との連携が機能したという。さらに秋葉次官下の森健良外務審議官(政務)・市川恵一北米局長ラインのバラク・オバマ前民主党政権人脈が有効だったとされる。 
 来年1月20日の大統領就任式後の2月早々にワシントンを訪れてバイデン氏と会談する菅氏にとって日米外交当局の良好な関係は心強いものになる。▶︎ 

▶︎次は内政。ここに来て新型コロナウイルス感染者が急増するなか、日本経済は株価が一時、2万6000円超となり、当初懸念されたほど悪くはない。政治が安定すれば来年後半には株価3万円突破とみる向きもある。  
 その最大の理由は米国経済の好調である。ドナルド・トランプ大統領は依然として「敗北宣言」を拒み続けるが、大統領・連邦議会選挙が民主党の大統領職奪還、共和党の米議会上院多数派維持、民主党の下院多数派維持という「トリプルブルー」未達成の結果に終わったことを米市場は好感した。危惧された先行きの不透明感が後退したのだ。 
 皮肉なことだが、米市場は株高・金利高・ドル高の「トリプル高」となり、米国経済が21年の世界経済を牽引する様相を帯び始めた。 菅政権は11月27日ごろに真水で30兆円規模の20年度第3次補正予算案を編成、続く12月中下旬には21年度政府予算案を閣議決定する。 
 さらに菅首相は得意とする喫緊の政策課題の「実績」積み上げに傾注している。総務相時代からの懸案である携帯電話料金の引き下げ、日本医師会を「敵」に仕立て上げての不妊治療の保険適用、縦割り行政の弊害打破の象徴とするデジタル庁創設に向けた法案準備などについて、年内にメドをつける腹積もりである。 では、その先に何を見ているのか。これまで指摘してきたように、衆議院解散・総選挙のタイミングを見計らっているのだ。 
 永田町では《首相周辺は首相の肝いり政策に加え、五輪の成功を成果にして衆院を解散して国民に信を問い、「本格政権」を樹立するシナリオを想定する》(朝日新聞)との見方が支配的である。 だが、筆者は現在も「1月衆院解散・2月総選挙」説を採る。 
 菅氏は恐らく1月8日に第204回通常国会を召集する。首相施政方針演説、政府四演説、与野党代表質問を経て衆参院予算委員会で第3次補正予算案審議を当初予算案に優先して審議し同19~22日に成立させたうえで、19日(または26日)に衆院を解散し、2月7日(または28日)の総選挙を視野に入れているのではないか。 
 しかし、首班指名選挙を実施する特別国会召集が3月にずれ込めば、当初予算の年度内成立が難しくなり4月中旬になるとの指摘があるのは事実だ。それでも、成立する3次補正予算(暫定予算編成)でしのぐことが可能である。 要は、菅は解散・総選挙を東京五輪前と五輪後のいずれかにする判断を迫られているのだ。注目すべきは菅氏の11月12日の昼夜会食である。同日昼は首相官邸で二階俊博自民党幹事長、林幹雄幹事長代理と、同夜は都内のホテルで二階、林両氏に加えて小池百合子東京都知事と会食した。 7月4日に予定される東京都議選は前回と様相が一変する。前回選挙で小池氏の「都民ファーストの会」と共闘した公明党は一転して自民党と組む。このねじれを解消するには早期解散論の二階氏の力業に頼る以外にない。ここで菅、二階両氏と公明党の利害が一致するのだ。そして菅首相は衆院選期間中にバイデン大統領と会談することになる。