No.625 2月15日号 「尖閣諸島」と「キッシンジャー」

習近平政権は2月1日,海上警備を担う中国海警局(海警)に武器使用を認める権限などを定めた海警法を施行した。昨年来,尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺領海外側の接続水域内に海警局所属船舶が頻繁に出没,その一部公船の領海侵犯も確認されている。同6日早朝には海警局船4隻のうち2隻が日本領海に侵入し,海上保安庁巡視船が退去警告を発する事態があった。
尖閣諸島周辺で海警局船の言わば「常在化」が進み,同地域を巡り日中間で緊張が高まっている。同法では,法執行の権限及び範囲を領海,接続水域,排他的経済水域(EEZ),大陸棚すべてを「管轄海域」と規定し,対米戦略上の防衛線と位置づけている(所謂「第1列島線」)。
 そうした中で,菅義偉首相は1月28日未明,ジョー・バイデン米大統領と電話会談し,米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約5条が尖閣諸島に適用されることを改めてバイデンに確認した。
 筆者は予てから,取り分けなぜ日本側が米政権交代の度に日米安保条約5条の尖閣諸島適用の意思確認を引き出すことに固執するのか,疑問に思っていた。菅直人民主党政権下の2010年9月7日午前に尖閣諸島付近で発生した中国漁船衝突事件(領海侵犯した中国漁船が海上保安庁巡視船の停船勧告を無視して逃走・衝突した事件。
 同船長を公務執行妨害で逮捕,後に釈放)以後の経緯を時系列で見てみる。同年9月23日:前原誠司外相はニューヨークでヒラリー・クリントン国務長官と会談,同長官は日本側の対応に理解を示した上で,「尖閣諸島には日米安保条約5条が適用される」と述べた。▶︎

▶︎10月15日:ジェームズ・スタインバーク国務副長官は訪米中の安倍晋三元首相に対し,尖閣諸島で紛争が発生した場合,同5条適用を言明。13年1月2日:バラク・オバマ大統領は米議会上下院で可決された尖閣諸島が日米安保条約5条の適用対象であることを明記した条文を盛り込んだ2013年度国防授権法案に署名。
 14年4月25日:来日したオバマ大統領と安倍首相の日米共同声明に「米国は最新鋭の軍事アセットを日本に配備しており,日米安保条約下でのコミットメントを果たすために必要な全ての能力を提供している。……尖閣諸島を含め日本の施政下にある全ての領域に及ぶ」と記述された。米大統領として初めての公式表明だ。17年2月10日:訪米した安倍首相はホワイトハウスでドナルド・トランプ大統領と会談,両首脳は日米安保条約5条が尖閣諸島に適用されることを確認,同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対するとした。
 20年11月12日:菅首相は米大統領に選出された直後のバイデンと電話会談,両首脳は日米安保条約5条の下での尖閣諸島を含む日本の防衛への米国の揺るぎないコミットメントについても確認した。ここで言及するのは「なぜ日本側が」なのかである。その解を得るヒントは戦後の日米関係に通暁する人物が語った「キッシンジャー・トラウマ」にあった。インターネットを通じて日米の公文書など資料を渉猟して辿り着いたのが米国務省記録だ…(以下は本誌掲載)申込はこちら