菅義偉首相は4月8~10日に訪米し,9日にホワイトハウスでジョー・バイデン大統領と会談する。菅はバイデンの大統領就任後の対面で会う初めての外国首脳となる。ここに至る時系列を整理すると,極めて重要だった3つのターニングポイントが改めて浮き彫りとなる。
①3月12日(日本時間午後10時32分から13日午前0時24分)のオンライン形式で行われた日米豪印4カ国(Quad)首脳会談,②アントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が来日し16日に東京で開催された日米安全保障協議委員会(2プラス2),③18~19日にアラスカ州アンカレジで開かれたブリンケンと楊潔篪共産党政治局員の米中外交トップ会談(ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官,王毅・国務委員兼外相が同席)―である。
菅訪米との関連で言えば,取り分けQuad首脳会談で合意をみた今年から22年末まで新型コロナウイルスワクチンをASEAN(東南アジア諸国連合)加盟10カ国に対し4カ国が連携して供給・支援することがキーである。即ち,ワクチン大国であるインドにはワクチン製造の世界最大手セラム・インスティチュート・オブ・インディアを筆頭にバーラト・バイオテック,ザイダスカディラなど純国産コロナワクチン・メーカーから約10億ドルで1億本(1本6回分)を国際協力銀行(JBIC)と商社が購入してASEAN諸国へ供給すると,菅がバイデンに提案する(Quad首脳会談では10億回分を提供することで合意)。▶︎
▶︎この構想は3月初旬に米側から日本に対し打診があり,この間,水面下で秘かに準備されているものである。全供給量のうち6割を日本が負担する。これはまさに,ブリンケンが3日に米国務省で行った外交演説で日本を含む同盟国に求めた「責任と負担の共有」に応えるものとなり,菅の「サプライズお土産」になる。こうしたワクチン供給の4カ国連携は,中国がこの間に推進してきた「ワクチン外交」を念頭に置いたものである。
そしてもちろん,菅は「外交成果」にする腹積もりであることは言うまでもない。その背景には,先の米中アラスカ会談でブリンケンと楊潔篪との激しい非難応酬がある。ブリンケンによる中国統治体制や香港,新彊ウイグル自治区での人権侵害批判を受けて昨年のBLM(黒人の命は大切だ)運動から米国史に残る人種差別まで持ち出した楊の強硬発言がたとえ中国内向けであったにしても,現在の米中対立が「レッドライン」(越えてはならない一線)に近づいていることを示している。
バイデン政権の対中基本スタンスは,必要な時には「競争関係」(competitive),可能な場合は「協力関係」(collaborative),譲れない時には「敵対関係」(adversarial)というものであるが,それでもバイデンは4月22日の気候変動サミット(バーチャル)への習近平参加の可能性を探っている…(以下は本誌掲載)申込はこちら