No.633 6月10日号 「CPUが早い」菅義偉首相の目論見

コンピュータ用語に「マイクロプロセッサ」とほぼ同義語として使われる「CPU(Central Processing Unit)」 がある。中央演算処理装置と訳されているが,言わばコンピュータの頭脳というニュアンスである。
 実は,このCPUという言葉は菅義偉政権インナーの中で密かに多用されている。「菅総理はCPUが早いからな」といった言い回しの使われ方である。平たく言えば,理解・咀嚼・判断するのが早いということだ。霞が関官僚による首相ブリーフィングで理解(咀嚼)力があり,判断が早いということはもちろん,誉め言葉だ。他方,「一を聞いて十を知る」ではないが自信過剰からの思い込み,決め付けの傾向が少なくないという側面があることを示唆するものでもある。
 菅首相がこの間,政治生命を賭けて全力投球してきた新型コロナウイルスワクチン接種については,そのCPUが早く作動して「結果」を出しつつある。4月23日の記者会見で「65歳以上の高齢者への接種を7月末までに完了」,5月7日には「速やかに1日100万回接種実現」を言明した際,世上の反応は「よくぞ大風呂敷を広げたもんだ」であった。だが,ここに来てワクチン接種率が急上昇している。8日現在,全国で25.5%,東京都は28.4%までアップした。▶︎

5月9日時点で全国が0.9%,東京都が0.6%だったことからすれば,公正に見ても奏功しつつあると言っていい。7月23日開催の東京五輪・パラリンピックについては,別稿にあるように,開催そのものが国民の命が賭けられている一か八かの賭けであるとの厳しい批判もあるが,一方で「五輪が多くの人の人生にかけがえのない価値を加えるものであることも,冷静に認めるべきだろう」(『日経新聞』9日付朝刊のコラム「大機小機」)という声も大きくなりつつある。
 いずれにしても,「CPUが早い」菅は日米首脳会談後の4月後半頃から「ワクチン」と「東京五輪」の2頭立て馬車を駆って今秋の衆院解散・総選挙に臨み,その後の自民党総裁選で再選を果たした上で菅政権の本格化・長期化を目指してきたのである。
 今,菅が描く政治日程は9月5日のパラリンピック閉会式直後に臨時国会を召集・冒頭解散に踏み切るというものだ。永田町の一部にあった首相所信表明演説,与野党の代表質問後に衆参院予算委員会で21年度補正予算案審議・成立させてからの衆院解散説はあり得ない…(以下は本誌掲載)申込はこちら