自民党内の積極財政派の言動が活発化している。 2月9日、同党衆院当選4回以下、参院当選2回以下の議員が「責任ある積極財政を推進する議員連盟」を立ち上げる。設立総会のその日、安倍晋三元首相が講師として招かれている。まさに「安倍応援団」である。同議連の共同代表は中村裕之農水副大臣(衆院当選4回・麻生派)だ。麻生派(志公会)の領袖は麻生太郎副総裁である。 麻生氏は、昨年12月に発足した岸田文雄首相(党総裁)直轄の財政健全化推進本部(本部長・額賀福志郎元財務相)の最高顧問でもある。矛盾しているかに見える。なぜならば、積極財政派の中村氏は財政規律を求める財務省の大臣を戦後最長の8年9カ月も務めた大ボスに逆らうことになるからだ。
しかし、政治の世界は摩訶不思議なことはいくらでも起こり得る。さて、本稿で取り上げるのは安倍氏だ。先の財政健全化推進本部とは対立関係にある高市早苗政調会長主導で設立された財政政策検討本部(本部長・西田昌司同代理)の最高顧問が安倍氏である。財政出動をめぐる積極派と慎重派の路線対立は、「安倍・高市vs麻生・茂木(敏充幹事長)」の構図になり、麻生・茂木連合に岸田氏が加担する政局絡みになっている。▶︎
▶︎岸田氏は通常国会の首相施政方針演説の翌日1月18日、世界経済フォーラム(ダボス会議)にオンライン形式で出席し、特別講演を行った。その中で「アベノミクスは大きな成果を上げてきましたが、持続可能で包摂的な日本経済に変革していくためには、これまでの取組だけでは不十分です」と語った。事実上のアベノミクス批判である。これだけではない。続く25日の衆院予算委員会で「株主資本主義からの転換は重要な考え方の一つである」と答弁している。
さて、主役の安倍氏の登場だ。1月16日、東京・大手町の経団連会館で非公開の講演が開催された。経団連加盟の大手企業約30社が参加する「国際経済外交総合戦略センター」(理事長・榊原定征元経団連会長)が主催、十倉雅和経団連会長、御手洗冨士夫キヤノン会長ら約20人の内輪会合だ。その講師が同センター最高顧問に就いた安倍氏であり、政府と日銀の連携、財政と金融の一体の重要さをブチ上げたという。まるで財政慎重派への宣戦布告のようだったと、出席者の一人は筆者に語った。「選挙と政局が大好き」な安倍氏は今なお意気軒昂なのだ。