ロシアのウクライナへの軍事侵攻,即ち「プーチンの戦争」は誰が見ても侵略戦争である。3月4日午前にウクライナ南東部にある欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所(原子炉6基)を攻撃するなど常軌を逸している。原子炉爆発ならば1986年に発生した史上最悪のチェルノブイリ原発放射能汚染事故の10倍,中・東欧諸国が消滅すると言われたが,危機一髪,放射性物資の大気中への流出はなかった(米東部時間6日未明に行われた国防総省高官のバックグラウンド・ブリーフィング)。
ロシア地上軍が短距離ミサイル,多連装ロケット攻撃などの援護を受けてザポリージャ原発を砲撃・制圧(ロシア政府は否定),同原発がロシアの「管理下」にあると聞けば誰もが背筋が凍りつく。世界中の株価が大暴落など何てことはない。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は1日,米欧の情報機関の話として「ウラジーミル・プーチン大統領は孤立し,ウクライナを制圧する難しさや戦費について真実を伝えない少数の側近に依存しているようにみえる」と報じた。情報機関は「妄想に陥り,追い詰められると暴発する危険性のある指導者」とも解析したという。
事実,ウィリアム・J・バーンズ米中央情報局(CIA)長官(元駐露米大使)は8日,米下院情報特別委員会公聴会で証言,次のように指摘した。①プーチンは武力行使に有利な情報と,限られた仮説を基に戦争に突入した②彼の考えには,ウクライナの軍事能力は排除されていた③外貨準備を増やし,自国経済への制裁防御が可能であると考えていた④彼は軍隊を近代化し,最小限のコストで迅速且つ決定的な勝利が可能であると確信していた―との4点を挙げた。
その上でプーチンの考えは全ての面で間違っていることが証明されている,そしてプーチンの描いていた仮定はこの12日間の戦いで重大な欠陥があることが証明されている,と断じた。WP紙報道と平仄が合う。▶︎
▶︎ジョー・バイデン大統領は,戦術核の使用をちらつかせ,民間人を含む非軍事施設への無差別攻撃を続けるプーチンの判断に疑念を抱き,情報機関に対し精神状態分析を最優先課題に位置付けるよう指示していたという。プーチンの精神状態が確定したとしても,それが直ちに停戦交渉が首尾よく進むとか,戦争終結に繋がる訳ではない。
いずれにしても,中国の習近平国家主席には「仲裁外交」に関与する意欲がないし,トルコが10日にセットしたロシア,ウクライナとの3カ国外相会談で戦闘終結に向けた成果を齎すとは思い難い。こうした中で,カマラ・ハリス米副大統領は9~11日に積極的に難民を受け入れるポーランドとルーマニアを訪れる。本誌は先週,ネブラスカ州オファット空軍基地(核兵器戦力の統合運用を担う米戦略軍司令部がある)に4機常駐するE-4B(空中指揮機。通称「ナイト・ウォッチ」)のうち1機がワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に移動したとの情報を得ていた。
同機は大統領専用機VC-25(通称「エアフォース・ワン」)と行動を共にすることが想定されているため,「すわ,バイデンが電撃訪欧か」と勇んで取材した結果,どうやら大統領継承順位1位であるハリスが使用するということのようだ。ハリスは10日,首都ワルシャワ滞在中にドゥダ大統領,モラヴィエツキ首相と会談する他,同国を訪問中のジャスティン・トルドー加首相とも会談する。11日には首都ブカレストに移動しヨハニス大統領と会談。そして米国とNATO同盟国との連帯を確認し,プーチンがロシアにとって戦略的敗北に繋がる過ちを犯したと表明すると思われる。ハリスは「チアリーダーの役割」との辛辣な見方もある…(以下は本誌掲載)申込はこちら