終わることがないウクライナ危機の惨劇が連日報道される中で,戦況打開を目指すロシアによる戦術核の使用が取り沙汰されている。折しも『日本経済新聞』(4月23日付朝刊)の連載コラム「Asiaを読む」に米ブラウン大学のライル・ゴールドスタイン客員教授は「中国の核増強,米国は冷静さを保て」と題した一文を寄稿している。
《……核のエスカレーションを懸念するのは中国だけではない。元北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官のジェームズ・スタブリディス元米海軍大将は2021年に出版した小説で,米中戦争はサンディエゴや上海など両国の主要都市を壊滅させる核攻撃で終結すると予想している》――。
当該の小説(邦訳)は『2034米中戦争』(二見書房)である。筆者は,同書に解説を寄せた『朝日新聞』の安全保障政策プロとして名高い梶原みずほ記者から事前に送本を受け,各誌に書評を書いた。34年3月に南シナ海とホルムズ海峡で勃発した2つの事件から始まる小説の衝撃的な内容,且つリアリティがあるシチュエーション設定に感心しただけでなく,その結末に驚かされたのだ。米中核戦争の阻止に動いたのはインドだった。然るにウクライナ戦争における現在のインドのナレンドラ・モディ政権のコミットメントを注視・分析すべきである。長きに渡って兵器とエネルギー分野でロシア傾斜するインドのモディ首相に対し,米欧日は「脱ロシア」を働きかけている。▶︎
▶︎ジョー・バイデン米大統領は4月11日,モディとオンライン会談し,ロシアとの関係見直しを強く求めた。22日にはボリス・ジョンソン英首相は首都ニューデリーを訪れてモディと会談,インド国産戦闘機の開発などの支援やエネルギー分野での協力を持ち掛けた。岸田文雄首相も同地で3月19日,モディとのトップ会談で「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を深化することで合意している。と同時に,「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現に向けて日米豪印4カ国の枠組み(Quad)を通じて連携することを確認した。岸田は首相就任後初めての2国間訪問先としてインドを選んだ。モディ詣での様相を呈している。
なぜ,インドなのか。中国の習近平国家主席は21日,海南島で開かれた「ボアオ・アジアフォーラム」でビデオ演説し,ウラジーミル・プーチン露大統領が西側諸国から「虐殺者」と指弾される中,「一方的な制裁の乱用に反対する」と,改めてロシア擁護の姿勢を鮮明にした。米欧日が今,危惧するのはウクライナ戦争を機にロシア・中国・インドの縦軸同盟の結成である。 こうした状況下,岸田は大型連休がスタートする4月29日から5月6日まで外遊する。最初の訪問国は,11月15~16日にバリ島で開催される20カ国・地域(G20)首脳会合の議長国であるインドネシアである…(以下は本誌掲載)申込はこちら