岸田文雄首相は5月6日午後,5泊8日の超強行軍でインドネシア,ベトナム,タイ,イタリア,英国の5カ国歴訪を終えて帰国した――。
最後の訪問地・ロンドンの金融街シティのギルドホールで5日午前(現地時間)に演説した岸田は<投資家へのメッセージ>で「私が提唱する経済政策『新しい資本主義』について話したい。私からのメッセージは1つだ。日本経済はこれからも力強く成長を続ける。安心して日本に投資してほしい」と述べ,「インベスト・イン・キシダ(Invest in Kishida)だ」と続けた。
がしかし岸田演説では,この「岸田に投資せよ」,「(新しい資本主義を一言でいえば)資本主義のバージョンアップ」,「資産所得倍増プラン」などキャッチコピーだけが喧伝された印象は否めず,その具体策の詳述に欠けたきらいがある。それでも岸田は「人への投資」「科学技術・イノベーションへの投資」「スタートアップ投資」「グリーン,デジタルへの投資」の4本柱を挙げて,少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充や国民の預貯金(2000兆円)を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設などに言及した。
とはいえ,それ以上を掘り下げた内容がなかったと市場関係者はネガティブな反応を示した。「資産所得倍増プラン」は自民党最古の派閥・宏池会(岸田派)の創立者であり地元・広島の偉大な先達者でもある池田勇人元首相の「所得倍増計画」にヒントを得たことは疑いの余地がない。▶︎
▶︎さらに言えば,やはり池田の言葉「寛容と忍耐」を念頭に探り当てたのが,岸田演説の<結語>「来年は日本がG7の議長国だ。民主主義国家の旗手として新しい資本主義を掲げながら『暴風』に向かって真正面から向き合っていく。高く舞い上がった凧としてこの場に戻ってくることを約束してスピーチを締めたい」である。「凧」がキーワードだ。自身が語っているように,ウインストン・チャーチル元英首相の引用である。「凧が一番高くあがるのは風に向かっている時である。風に流されている時ではない(Kites rise highest against the wind, not with it)」――。
物の本によると,凧は英国の国威を,風はナチス・ドイツを指すという。この言葉がチャーチルの有名な閣議演説「名誉と歴史のある国イギリスが途絶えるのは,私たちの最後の一人が,地に倒れ伏した後であることを私は確信する」に続くのだ。このチャーチル演説は,まさに現在のウクライナが国家存亡の危機に晒される中で,ウォロディミル・ゼレンスキー大統領がロシアの軍事侵略に立ち向かうべく国民を鼓舞する姿に通じるものがある。この岸田演説は,木原誠二官房副長官(政務)と村井英樹首相補佐官を中心に嶋田隆首相首席秘書官をヘッドとする荒井勝喜首相秘書官(事務)ら秘書官グループの「チーム岸田」が準備したものだ…(以下は本誌掲載)申込はこちら