ジョー・バイデン米大統領発言の真意を巡り、諸説乱れ飛んでいる。先週5月23日の日米首脳会談後の共同記者会見で飛び出した発言のことである。米記者が「大統領はウクライナ紛争に軍事的に関与することを嫌いました。では台湾有事の場合、台湾を防衛するために軍事的に関与する用意がありますか?」と問うと、バイデン氏は「イエス、それが我々の約束だ」と答えたのだ。同氏はこれまでにも台湾防衛問題に関して3度失言し、3度ともホワイトハウスが米国の姿勢に何の変化もないと、事実上の訂正をしている。
従って、「軍事介入する」と受け止められたバイデン発言直後は「またもや失言」との見方が広がり、実際、翌日の会見で「一つの中国政策に変化はない」と否定してみせた。これまでの「曖昧戦略(Strategic Ambiguity)」が「明確戦略(Strategic Clarity)」に転換することはないとの見方で一致した。では、本当にバイデン発言は失言なのか。
実は、バイデン氏は「一つの中国政策」について、次のように続けていた。「我々は一つの中国という政策に同意しており、そこから付随して発生した取り決めも同じだ。▶︎
▶︎しかし(台湾を)武力で奪うことができるという考えは全く適切さを欠く。地域全体を混乱させ、ウクライナで起きたことと同じような行動が繰り返されることになる」。
筆者は、ここにメッセージが込められているとみる。失言ではない。バイデン氏は日韓両国訪問に当たり、この種の質問にどう答えるかについて周到な準備をしていた。だからと言って、想定問答集通りに話すタイプではないので、同発言がレク内容そのものだと言っているのではない。要は、「良い警官」と「悪い警官」のような役割分担なのだ。バイデン氏が米国の関与を明確にし、事務方が政策に変更なしとして、中国の習近平指導部を不必要に刺激することを避けたのだ。
23日夜の日米首脳夕食会場となった東京・白金台の「八芳園」選定の助言者は秋葉剛男国家安全保障局長とされる。同所は「中国革命の父」であり、台湾の正式名称「中華民国」建国の父でもある孫文とは浅からぬ縁があるのだ。同氏は大型連休中にワシントンを訪れ、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)とブリンケン国務長官と個別に長時間、協議している。共に対中強硬派である。当然ながら秋葉、ブリンケン両氏は夕食会に同席した。