岸田文雄首相は、6月26~28日にドイツ南部のエルマウで開かれる主要7カ国首脳会合(G7サミット)に出席する。ロシアによるウクライナ侵略を受けた国際的な食糧安全保障が主なテーマの一つとなる。
とりわけ、ウクライナは「チェルノーゼム(黒土)」と呼ばれる肥沃な土壌に恵まれ、小麦やトウモロコシなど穀物輸出立国であった。ところが、ウクライナでは毎年4‐5月に冬小麦を収穫、5‐6月に春小麦の作付けが始まるが、今年は2月24日のロシアの軍事侵攻とその長期化によって作付けや輸出がほぼ不可能となった。国連食糧農業機関によれば、小麦輸出世界第1位のロシア(19%)と第5位のウクライナ(9%)を合わせて世界小麦輸出の3割を占める。然るにウクライナ産への依存度が高い中東・アフリカ諸国の食生活の中心である小麦が調達難に陥ると、直ちに食糧危機に直結する。
一方、調達先を米国やカナダなどに切り替えれば、小麦の需給逼迫を招来する。次はトウモロコシ。輸出シェア14%を占めるウクライナ産トウモロコシの供給が滞れば、家畜飼料に影響大であり、畜産農家に打撃となり乳製品や食肉など食糧インフレに繋がりかねない。▶︎
▶︎総消費量の約20%が飼料用である小麦の世界的な供給不足により、その代替としてトウモロコシの需要が急増、今後とも一段の増加が見込まれる。価格急騰も不可避だ。皮肉なことにトウモロコシ供給懸念は、主要産地である米国中西部が気候変動の影響を受けて4‐5月に天候不順が続き、作付け進捗率が例年比で50%を下回るなど、心配の種が尽きない。
これだけではない。世界輸出シェアの約5割を有するウクライナ産ヒマワリ油も供給が減少し、植物油脂のパーム油などが高騰、同油を原料とする食品や洗剤、化粧品などの製品価格の上昇に波及している。すなわち、「プーチンの戦争」は甚大な人的被害や基本インフラ破壊を与えただけではなく、世界の食糧危機と食糧インフレを招いたのである。
英紙フィナンシャル・タイムズ(4月6日付)は、《主要農業地帯が重要な春の作付けを控えた中国は、「ゼロコロナ」策で厳しい都市封鎖が労働力や肥料、種子等の深刻な不足に拍車をかけ、穀物の生産量減少による輸入拡大を強いられて世界の食糧インフレを加速させている》と警鐘をならしていたのだ。まさに「戦争」と「失策」が途上国に困窮を強いていると言っていいのではないか。