正直言って、歴代の我が国外交当局が“頼みの綱”として信を置いてきたバイデン米政権のカート・キャンベル大統領副補佐官兼国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官(65歳)に良い印象を持っていなかった。同氏は6月16日、新アメリカ安全保障センター(CNAS)で講演、13日にルクセンブルクで行われたジェイク・サリバン大統領補佐官と楊潔篪中国共産党政治局員の会談に同席したとした上で、次のように述べた。
「(中国とは)紛れもなく競争関係にありながら、できれば平和的な関係を築き、双方の競争の良い面を引き出せるようにするのがベストです」 ウクライナ戦争の次は「台湾有事」であるとの危機感が強まる中で、米政権中枢の「平和的な関係を築きたい」発言だ。訝しく思わない方がおかしい。同講演では「太平洋諸国との関係を強化するため、日豪などと共に新たな枠組みを来週、創設する」と語った。だが、週が明けても新たな動きは表面化せず、例の大法螺ではないかと疑っていた。
ところが一週間後の23日、米戦略国際問題研究所(CSIS)で太平洋島嶼国のフィジーやサモア諸島の国連代表を前に、米日豪英仏ニュージーランドとともに「Partners in the Blue Pacific(青い太平洋パートナーズ)」を結成すると発表したのだ。▶︎
▶︎中国による南シナ海、インド洋のみならず南太平洋への海洋進出に全力を挙げて立ち向かうと宣言したのである。事ここに至って筆者は前言を翻せざるを得ない。
言い訳がましいが、「良い印象」を抱いていなかったのにはそれなりの理由がある。キャンベル氏夫人のラエル・ブレイナード氏は現在、米連邦準備制度理事会(FRB)理事で元財務次官(国際担当)という才媛だ。一方のキャンベル氏は国防副次官補(クリントン政権)、国務次官補(オバマ政権)を歴任したが、キャリア的には「格下」感が否めない。
バイデン政権発足前には大統領補佐官(国家安全保障担当)を期待していたのは周知の事実であり、現上司のサリバン氏は弱冠45歳だ。トランプ共和党政権時代は米コンサル会社アジア・グループ会長として中国や韓国とのビジネスに勤しんでいた話は有名。ワシントン政界雀は11月8日の中間選挙前に政権から離脱すると見る。 同氏が優秀な戦略家であることは認めるが、皇室への失言など不用意発言が少なくないのも事実。日米交渉で“一点買い”は失敗を招くことがある。