前回に続いて内閣官房国家安全保障局(NSS)の秋葉剛男局長が登場する。それほどのキーパーソンである証と理解していただきたい。
9月1日(現地時間)、ハワイ州オアフ島の米インド太平洋軍司令部(USINDOPACOM)で日米韓3カ国高官協議が行われた。同司令部は米海兵隊キャンプ・H・M・スミス内に設置されている。ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が主宰し、秋葉NSS局長と韓国の金聖翰大統領府国家安保室長が招かれた。前日にホノルル入りした秋葉氏は事前にサリバン氏と会談した上で3カ国協議に臨んだ。両氏は8月2日にも首都ワシントンのホワイトハウスで会談している。日程からも想像できるように、この日米カウンターパートはまさに緊密な関係にある。
では、件の3者協議と、日米高官会談で何が話し合われたのか。改めて指摘するまでもないが、10月16日に開幕される第20回中国共産党大会で習近平共産党総書記(国家主席)の3期入り承認による今後の見通しである。要は軍部掌握を含む習体制の先行きが盤石か否かの判定だ。▶︎
それは翻って、懸念される中国の台湾軍事侵攻が早期に起こり得るのかを見極めることでもある。日本戦略研究フォーラム(屋山太郎会長)は8月6、7両日、台湾海峡危機を想定した政策シミュレーション(模擬訓練)を実施した。
昨年8月に続き2回目である。9月1日発売の「正論」(10月号)にそのシミュレーションが再現されているので、興味がある方は一読いただきたい。筆者が日米韓高官協議を取り上げた理由は、一にかかって、秋葉氏がその直前の17日に習氏ブレーンの楊潔篪共産党政治局員と中国・天津市の共産党施設で7時間余の会談を行ったことが念頭にあるからだ。秋葉・楊会談は記録に残されていない。即ち、秋葉氏の記憶にあるだけなので、米韓両国、とりわけサリバン氏は秋葉氏から説明を受けるしかない。喫緊の対中政策を再構築する必要に迫られているのだ。秋葉氏は今、数多のミッションを抱えている。
岸田文雄首相の公約「最重点課題は防衛力の強化」の肝である防衛費の増額や財源問題に関する有識者会議が月末までに、官邸主導で設置される。その仕切り役であり、人選も担う。論客の黒江哲郎元防衛事務次官や若手財界人起用を構想しているという。岸田氏にとっては、実に心強い存在に違いない。