暮れも押し迫るクリスマスイブ前日の12月23日、岸田文雄首相は今後10年間に150兆円超規模の官民GX(グリーントランスフォーメーション)投資を実現し、国際公約と、日本の産業競争力強化・経済成長を同時に実現していくための「成長志向型カーボンプライシング(CP)構想」を発表する。筆者が所管部署から入手した同構想草案には次のように記述されている。《(1)CP導入の結果として得られる将来の財源を裏付けとした「GX経済移行債(仮称)」を発行。これにより、大胆な先行投資支援。(2)CPは、直ちに導入するのではなく、GXに取り組む期間を設けた上で、エネルギーに係る負担の総額が中長期的に減少していく中で導入することを基本としてはどうか》と提起する。
その上で、以下の通りに続く。少々長くなるが我慢して頂きたい。《①炭素に対する賦課金(化石燃料の輸入事業者等が対象)を当初低い負担で導入し、徐々に引き上げ⇒その方針を予め示すことで、GX投資を前倒し。②多排出産業には、GXリーグ(筆者注・カーボンニュートラルへの移行に向けた挑戦を果敢に行い、国際ビジネスで勝てる企業群がGXを牽引する枠組み)を発展させていく中で「排出量取引制度(GX-ETS)」を段階的に導入・発展。特に、代替技術が存在し、空洞化(カーボンリーケージ)リスクがない発電事業者に対して、EU等と同様に「有償オークション」を将来導入⇒電源のカーボンニュートラル化を更に加速》。
この150兆円超のGX投資の肝は「GX経済移行債」である。同債発行にあたっては、資金使途とそのモニタリング、金額規模、発行方法、発行条件等の観点から詳細な検討が必要となる。その使途としては、岸田氏が11月29日の第4回GX実行会議(議長・首相)で述べた規制・支援一体型投資促進策で例示したように政府公約「2050年のカーボンニュートラル」に向け、水素・アンモニア、再生エネルギー、蓄電池、製造業の省エネ・燃料転換などが想定されている。▶︎
▶︎具体的には、水素・アンモニアは今後10年間で約7兆円、畜電池産業で約7兆円、素材産業で約8兆円(鉄鋼業約3兆円、化学産業約3兆円、セメント産業約1兆円、紙パ産業約1兆円)、自動車産業で約34兆円、資源循環産業で約2兆円、住宅・建築物で約14兆円、脱炭素目的のデジタル投資で約12兆円、航空機産業で約5兆円、ゼロエミッション船舶(海事産業)で約3兆円、バイオものづくりで約3兆円、CCS(カーボンリサイクル)で約4兆円の11事例で計約100兆円。これに再生可能エネルギーの大量導入で約31兆円などを加えた目の子の総額が約150兆円超に達する。たとえ今後10年にとはいえ、豆腐の「丁」ではないが、余りに「兆」が多出するのでピンと来ないのではないか。とにかく驚きの数字である。
それにしても、これが民間投資を引き出す政府支援の基本コンセプトである。12月23日の第5回GX実行会議では、実はもう一つ経済産業省からの報告を受けて最終決定する政府方針がある。それは、8日に同省の有識者会議「原子力小委員会」(委員長・山口彰原子力安全研究協会理事)が今後の原子力政策を示す行動方針を了承したことで、廃炉にする原発の建て替えを念頭に次世代革新炉(革新軽水炉や小型モジュール炉・SMR)の開発・建設の推進である。原発の現状について言えば、再稼働10基(稼働中7基、停止中3基)、設置変更許可7基、新規制基準審査中10基、未申請9基、廃炉24基――である。経産省・資源エネルギー庁は今冬まで再稼働済10基(西日本)のうち9基の稼働確保と、設置許可済7基(東日本を含む)のうち安全工事の円滑実施によって関西電力の高浜原発1・2号機、東北電力の女川原発2号機、中国電力の島根原発2号機の再稼働を来夏・来冬までに実現する。
要するに、ロシアによるウクライナ侵略という世界的な有事の下で、30年度46%削減目標や50年度カーボンニュートラルを目指すためにも、電力の安定供給の再構築に向け、多様性(エネルギー源+調達先)とレジリエンス(抵抗力+回復力)を高めることに全力を挙げる必要があるということである。電力需給の逼迫を受けた安定供給の危機にある現状からすれば、これなくしてGXに向けた国民的理解は得られない。エネルギー安全保障の観点からも、今冬の停電回避は絶対条件だ。原発再稼働問題でまさに政治決断が求められている。