いよいよ師走も押し迫った。本稿では2022年の日本外交を総括する。エポックメーキングとなった外交案件があった。そのなかでも特筆すべきは、11月15~16日にインドネシアのバリ島で開催された主要20カ国・地域(G20)首脳会議である。「G20露非難の宣言採択―制裁への異論併記」の見出しを掲げた産経新聞(17日付朝刊)は次のように報じている。
《首脳宣言は、2月に始まったロシアのウクライナ侵略を「ほとんどのメンバーが非難した」と指摘した上で、「戦争の時代であってはならない」と言及。ロシアによる核兵器使用の威嚇は「許されない」と断じるなど、対露批判に踏み込んだ内容となった》。首脳宣言採択について他紙は「別の見解や異なる評価があった」ことに力点を置く見出しを採ったが、産経は異なった。筆者は独自取材を基に産経に軍配を上げる。もちろん、根拠がある。議長国のジョコ・ウィドド大統領のG20開催への強い思い入れは周知のことだった。
だがメンバー国にはロシア・シンパが少なくなく、首脳宣言発表はできないとの見方が支配的だった。大きな役割を果たしたのは日米両国で、最終的にインドとブラジルが宣言発出に同意したのが決定打となった。▶︎
▶︎小野啓一外務審議官(経済)は7月下旬以降、海外出張で延べ50時間の交渉を行っている。同時期に米投資会社最大手ブラックロックから転出したマイケル・パイル国際経済担当大統領次席補佐官とともに水面下で、当該国との折衝を繰り返していた。両氏は日米両首脳の「シェルパ」(個人代表)である。
具体名はG20首脳会議議長を務めたインドネシアのハッサン元外相、インドのジャイシャンカル外相、ブラジルのアモリン元国連大使だ。インドは23年、ブラジルが24年G 20議長国。事前の折衝で首相宣言発表に強く反対したラブロフ露外相を押し切ったのはジャイシャンカル、アモリン両氏であり、その二人を口説き落としたのが小野、パイル両氏である。その背景にはインド太平洋戦略構想を推進するクアッド(日米豪印4カ国)がある。
そして安倍晋三政権時代に対中強硬姿勢を崩さないインドとの緊密連携を確立したことが大きかった。それを継承・発展させたのが5月に東京で開かれたクアッド首脳会合だ。そして戦況不透明なウクライナ戦争で、強いロシア牽制となったのがG20首脳宣言である。