NHKは1月31日夜、次のように報道した。《サイバー空間での安全保障の強化に向け、政府は、内閣官房に内閣審議官をトップとする「サイバー安全保障体制整備準備室」を設置しました。政府は、先月改定した「国家安全保障戦略」で、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の導入に向け、今の「内閣サイバーセキュリティセンター」を組織改正し強化するとしています》。 これまでは、首相の下に2015年1月9日に発足したサイバーセキュリティ戦略本部(本部長・内閣官房長官)の事務局として内閣サイバーセキュリティセンター(NISC。センター長・官房副長官補、副センター長・内閣審議官)が担った。新たにサイバー安全保障体制整備準備室を設置し、NISCを組織改編するというのである。現NISCセンター長の高橋憲一官房副長官補(事態対処・危機管理担当・元防衛事務次官)が、同準備室長に就任した警察庁出身の小柳誠二内閣審議官とともに新組織の絵図を描くことになる。
日本がモデルと考えているのは米国のサイバーセキュリティ担当機関である。バイデン米政権の組織で言えば、ホワイトハウスのクリス・イングリス国家サイバー長官をトップに各省庁からインテリジェンス情報を集約する国家情報長官室(ODNI)以下、国防総省(国家安全保障局NSA)、司法省(連邦捜査局FBI)、国土安全保障省(サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁)、国務省(サイバー空間安全保障・新興技術局)、商務省(国立標準技術研究所)を統括している。予算、人員はもちろん日米両国に彼我の差があるのは言うまでもない。それにしても、遅ればせながらサイバー安全保障体制整備準備室が設置されたことは評価すべきだ。
ただ、新組織がサイバーセキュリティに関わる警察庁、デジタル庁、金融庁、総務省、外務省、防衛省、経済産業省、厚生労働省、国土交通省などを、果たして法的・政策的に束ねていけるのかについて不安を覚えるのは筆者だけではあるまい。▶︎
▶︎現下の日本を取り巻く安全保障環境に目を向ければ、中国による台湾の武力侵攻「2025年」「27年」説が台湾有事に現実味を与えていることを実感するはずだ。今や我々は、「サイバー大国」であるロシアが昨年2月24日のウクライナ侵略に当たって、史上初めて正規戦だけではなく非正規戦やサイバー攻撃などを組み合わせたハイブリッド戦争を仕掛けたことを知っている。「『戦狼』が『微笑』に―中国外交、急旋回」(日本経済新聞2月2日付朝刊)と報じられたが、その確率はともかく、習近平指導部が24年1月の台湾総統選と同秋の米大統領選を“絶好の機会”と見なして台湾統一に向けたハイブリッド戦争に踏み切る可能性を排除すべきではない。「狼少年」になるつもりはない。
しかし「戦狼」の「微笑」に急旋回が嵐の前の静けさではないことを願う。否、願うだけではダメということなのだ。昨年12月16日に閣議決定された防衛関連3文書の「国家安全保障戦略」にある<国家安全保障戦略におけるサイバー関連のその他記載>に以下のような記述がある。「……領域横断作戦や我が国の反撃能力の行使を含む日米間の運用の調整、相互運用性の向上、サイバー・宇宙分野等での協力深化、先端技術を取り込む装備・技術面での協力の推進、日米のより高度かつ実践的な共同訓練、共同の柔軟に選択される抑止措置(FDO)、共同の情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動、日米の施設の共同使用の増加等に取り組む」。
まさに喫緊の課題なのだ。現在会期中の衆参院予算委員会で与野党が改定された防衛3文書の「国家安全保障戦略」に盛り込まれた政策について百家争鳴の議論を行って欲しい。岸田文雄首相長男秘書官の外遊中の買い物の賛否よりも遥かに意味がある国会論議だと書くと、指弾されるかもしれないが如何なものだろうか。