旧聞に属するが、岸田文雄首相は昨年12月9日午後2時6分から同22分まで首相官邸で、米パランティア・テクノロジーズ社のアレックス・カープ最高経営責任者(CEO)と面会した(産経新聞「岸田日誌」)。同社は世界有数のビッグデータ解析企業であるが、日本における知名度はそれほど高くない。加えて、僅か16分間の面会に秋葉剛男国家安全保障局長、河邉賢裕外務省北米局長同席と記述されており、筆者は少なからぬ違和感を覚えた。世界トップレベルのソフトウェア企業CEOの表敬としても、その直前に秋葉、河邉両氏が5分間首相と会っているのだ。どう考えても得心できない。その疑問は、パランティア社を検索してみると氷解した。2003年創業の同社(本社・コロラド州デンバー)は、01年の9・11同時多発テロ事件を機にそれまでの様々なデータ解析を国家安全保障に特化することで飛躍を遂げた。
事実、2月13日発表の22年第4四半期決算は収益急伸だった。カープ氏は「パランティアは第一に軍や情報機関のために製品を開発している。世界の最も重要な機関(政府や基幹産業)を動かしている人たちにソフトウェアを提供することにより、膨大なデータを集める勢力(巨大IT企業や権威主義国家)に対抗する能力を提供できる」(朝日新聞22年3月22日付電子版)と語っている。▶︎
▶︎主たる顧客は米中央情報局(CIA)や米国家安全保障局(NSA)である。そして米グーグルやアップルなどシリコンバレーを代表する巨大IT企業、中国やロシアなど権威主義国家への敵対心を隠さない。
翻って現下のウクライナ戦争に目を向けてみたい。火力で圧倒的にロシアに劣るウクライナが善戦している理由の一つが同社の協力だとされる。ロシア軍の主力戦車T‐72を核とする機甲部隊が、次々とウクライナ軍の攻撃ヘリ、対戦車ミサイル、攻撃ドローンなどによって破壊されたのはパランティア社の人工知能(AI)を活用する可視化した位置情報に負う。「Gotham」と呼ばれるビッグデータの分析・解析のプラットフォームは今や米欧の情報機関にとって欠くことができない武器なのだ。さらに刮目すべきは、最近の同社のホームページを覗くと「台湾有事」という言葉が散見されることだ。ここにカープ氏の官邸訪問の理由が透けて見える。契約したのか。最後に、前号の「ゼロ金利政策」表記を「ゼロ金利解除」に訂正します。