4月29日付 チャットGPTがもたらしたAI革命…G7広島サミット間近、岸田首相はデジタル覇権争いで主導権を狙えるか

カラスが鳴かない日があっても人工知能(AI )を取り込んだ最先端テクノロジー「チャットGPT」の文字をネットや新聞紙上で見ない日はない――。
 それは4月26日の新聞各紙を見れば分かる。日本経済新聞(同日付朝刊)1面トップに「EU(欧州連合)、生成AI統一規制論―『メード・ウィズAI』表示案も―各国で温度差、開発は対象外」と大きな見出しを掲げた記事があった。 朝日新聞(同)の1面左肩に「チャットGPT くぎ刺された首相―CEOとの電撃面会舞台裏」と題した記事は3面に続くが、同面には「AIウサギ(研究進む他国)が規制で休む間に―焦る政府・自民『カメが追い抜こう』」といった捻りの効いた見出しが躍っていた。次いで読売新聞(同)。1面の連載企画の「衝撃生成AI(中)」とは別に同1面の「政府『AI戦略会議』設置へ―政策の司令塔、活用と規制議論」、2面の「新しい資本主義AI活用―実現会議議論、産業への影響検討へ」ともに記事中で「チャットGPT」を取り上げている。公正を期すれば、産経新聞(同)も9面で「生成AIで労働力補う―新資本主義会議、産業利用後押し」と題した記事を掲載している。筆者の関心事に即して言えば、「朝日記事」が4月10日に岸田文雄首相が首相官邸でチャットGPTを開発した米新興企業オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)との会談の背景に言及したことを多としたい。 
 ひけらかすつもりは毛頭ないが、当連載コラムの前々号で統一地方選をテーマに日本維新の会の躍進と自民党若手議員の相関関係に触れるなか、自民党デジタル社会推進本部(本部長・平井卓也元デジタル担当相)傘下の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム(PT)」が件のアルトマン氏を招請して岸田首相との面会を実現したと書いている。さらに「夕刊フジ」連載コラム「永田町・霞が関インサイド」の4月17日と24日に続けて岸田、アルトマン両氏の面会が持つ意味を深掘りした。とりわけ、後者では5月19日開幕のG7広島サミットで今や“国際的スーパースター”になったアルトマン氏との面会は首脳会議における岸田氏の「手札」となると指摘している。いささか「朝日」より先に書いたと誇るのではない。同紙の報道スタンスと同じだったことを素直に喜んでいるのだ。▶︎

▶︎なぜか。そこには当然にも理由がある。産業革命にも比肩するAI革命は、これまで偽情報、個人情報や企業秘密の漏洩、著作権の侵害のリスクが指摘されてきたように、確実にカオスをもたらす。
 だが、「人類はこの数カ月でもうすでにルビコン川を渡ってしまったのかもしれない」(東京大学が学生や職員向けに示したチャットGPTの向き合い方の文書)現在、日本は対話型AIの開発で圧倒的に遅れを取り、この遅れを取り戻すには米AIスタートアップ企業の協力なくして立ち行かない状況にあるのだ。一方でオープンAIやアンソロピックなど米先進企業は、EUがチャットGPTなど生成AIの適正利用に向けた統一ルール作り(法制化)に動いている(注・先の日経新聞のマルグレーテ・ベステアー欧州委員会上級副委員長インタビューに詳述)ことに強い危機感を抱いている。これがまさに肝なのだ。
 然るにG7首脳会議の重要議題でもあるデジタル覇権について議長・岸田氏に議論をリードして欲しいというのがアルトマン氏のキーイシューであった。岸田氏にも同氏と面会するインセンティブがあったのは言うまでもない。自民党「AIの進化と実装に関するPT」(座長・平将明元内閣府副大臣)での議論を主導するのは塩崎彰久事務局長と神田潤一推進本部事務局次長である。ニューヨーク州弁護士資格を持つ塩崎氏は東大法学部→米ペンシルベニア大学ウォートンスクール、日銀出身の神田氏が東大経済学部→米イェール大学大学院で共に修士号取得のピカピカの1年生(当選1回)だ。その2人がオープンAI側と接触し、アルトマン氏招聘を実現したのだ。最近の自民党にはこのような輝かしいキャリアを持つ若手政治家が増えている。こうしたことを念頭に岸田氏は19日夜に地方紙の幹部との会食で、チャットGPTが広島サミットの議題になるかと問われて「なって当然だ」と答えた。そこには党内の有為な若手を取り込みたいとの岸田氏の思いが透けて見える。