No.675 5月10日号 日韓首脳会談と早期衆院解散説 

5月7日にソウルの韓国大統領府(青瓦台)で行われた岸田文雄首相と尹錫悦大統領のトップ会談は両首脳が共に“譲歩”することで「日韓新時代」到来の起点となる画期的なものだった。尹は会談冒頭で「過去の歴史問題が完全に整理されない限り,未来の協力に一歩も踏み出せないという認識から脱却しなければならない」と述べた。これはもちろん,両国の最大の懸案だった徴用工訴訟問題(歴史認識問題)を念頭に置いたものだ。
 要は,韓国が100点満点を求め続ければ,これまでの戦後最悪とされた日韓関係の改善は実現できないので譲歩すべきはする,故に日本もそれに見合う姿勢を示せと言い放ったのだ。これに応えて岸田は会談後の共同記者会見で「私自身,当時厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい,悲しい思いをされたことに心が痛む思いだ」と語った。それでもこの「心痛む」発言に対し,保守系『東亜日報』の社説(8日付)は「韓日間の深い認識の溝を埋めるには全然足りない」と指摘するなど韓国メディアからの批判は少なくなかった。▶︎

とはいえ,2011年10月の民主党政権時代の野田佳彦首相(当時)が,李明博大統領との会談に当たって最側近・斎藤勁官房副長官らが「心が痛む」と伝えるべきと進言したが受け容れなかった経緯を想起すれば,岸田が「個人の思い」で報いたのは大きな決断であった。
 岸田は会見でその他にも際立ったポイントを挙げた。①19日に広島で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて,両首脳で同市の平和記念公園にある韓国人原爆犠牲者慰霊碑に参拝する②東電福島第1原発のALPS処理水の海洋放出について韓国専門家の現地視察団を受け入れる――である。
 今回の岸田・尹会談に関する新聞各紙報道のなかで特筆すべき記事があった。『日本経済新聞』(8日付朝刊)3面トップの「日韓,米同盟戦略に呼応―北朝鮮ミサイル対応で連携―発射情報,即時に共有」がそれだ。興味深く読んだのは見出しとやや離れるが次のように書かれている件だ。《尹氏は側近の一人にこう語る。「第2次世界大戦後(西ドイツ首相の)アデナウアーと(フランス大統領の)ドゴールが両国関係を改善させた。独仏関係の改善がなければ欧州の平和も,その後の欧州連合(EU)発足もなかった」》。少々,説明が必要だろう。これは今後の「日韓新時代」と無関係ではない…(以下は本誌掲載)申込はこちら