No.677 6月10日号 今夏も攻勢が続く「岸田外交・安保」 

6月2~4日にシンガポールで英国際問題戦略研究所(IISS。ジョン・チップマン所長)が主催した第20回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)は,多くの話題を国際社会に与えた。アジア・太平洋地域を中心に国防,安全保障担当の閣僚と各国制服組トップが蝟集するシャングリラ会合前の5月初旬,米国のロイド・オースティン国防長官は中国の李尚福・国務委員兼国防相との会談を求めたが,中国側が拒否したことで見送られた。同地域の最大関心事である台湾有事が取り沙汰される中で,改めて米中対立が浮き彫りとなった。事実,オースティンは3日の演説で「(台湾海峡に関して)平和と安定を維持する決意」を述べた上で「台湾海峡で紛争が起これば壊滅的になる」と断じた。
 一方の李尚福は翌日の演説で「(台湾について)平和的統一のため最大の努力をするが,武力行使の放棄は約束しない」と明言した。双方はこれまでの基本原則を繰り返しただけだ。しかし,同会合直前の5月30日~6月1日に米電気自動車(EV)最大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が北京を訪れて秦剛国務委員兼外相,丁薛祥筆頭副首相(共産党序列6位)らと会談した他,米金融最大手JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOやコーヒー大手スターバックスのラクスマン・ナラシンハンCEOなども同時期に中国を訪問している。▶︎

▶︎米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(台湾系米国人)も近々訪中する。加えて,同会合初日の2日付英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)はウィリアム・バーンズ米CIA長官が5月に極秘訪中していたと報じた。G7広島サミット首脳宣言にも盛り込まれた語彙「デカップリング(分断)」ではなく「デリスキング(リスク回避)」を地で行っている感がする。さらにアントニー・ブリンケン国務長官も6月下旬までに訪中し,習近平国家主席との会談が予定されている。
 では,件の会合で浜田靖一防衛相は如何なる役割を果たしたのか。1日に東京で行ったオースティン国防長官との日米防衛相会談(1時間45分)を起点に,3日の日中防衛相会談(約40分),韓国の李鐘燮国防長官との日韓防衛相会談(約40分),そして日米韓防衛相会談(約1時間),さらにオースティン,リチャード・マールズ豪国防相,カリート・ガルベス比国防相代行と日米豪比防衛相会談(約35分)など精力的に会談をこなした。本誌が注目したのは日米豪にフィリピンを加えた初めての4カ国会談である。南シナ海や台湾を念頭に中国の脅威に対処する多国間の枠組みを,オースティンは「自由で開かれたインド太平洋の推進という共通のビジョンのもとで結束している」と明言したのだ…(以下は本誌掲載)申込はこちら