自民党が衆院小選挙区の「10増10減」に伴う候補者調整を続けている。その中でも最大の焦点は山口である。次期衆院選から4小選挙区が3選挙区に減少し現山口4区は新山口3区に編入されるため現3区選出の林芳正外相(岸田派・宏池会)と、安倍晋三元首相の死亡による4月の現4区の補欠選挙で初当選した吉田真次氏(安倍派・清和会)の公認争いが熾烈を極めている。自民党執行部は現外相で農水相、文科相を歴任、当選回数(衆院1回・参院5回)の実績から林氏を新3区の公認候補者となる選挙区支部長に選出する意向を固めたとされる。
一方で安倍派会長代理の塩谷立・元総務会長は7日午後、首相官邸で岸田文雄首相と会い、吉田氏を支部長に選ぶよう要請したが、首相は首肯しなかったという。翌日の新聞各紙の見出しは次のようなものだ。『読売新聞』(8日付朝刊)は「自民候補者調整を加速―衆院『10増10減』、早期解散備え 来週中メド」、日本経済新聞」(同)の「衆院早期解散にらむ―自民候補調整、来週に決着―山口3区は林外相」からも分かるように、読者に早期の衆院解散・総選挙の可能性が高くなった印象を与える。現在の永田町では、衆院の早期解散とは今通常国会会期末6月21日から10日間ほどの会期延長のあるなしは別に同月中の解散、7月11日衆院選公示・23日投開票を指す。その心は、野党の選挙態勢が圧倒的に政権党・自民党に後れを取っていることにある。野党第1党・立憲民主党の泉健太代表が次期衆院選で150議席を獲得できなければ代表を辞任する意向を明らかにしたが、現時点で擁立を決めたのは144人である。衆院小選挙区の定数は289であり、200人擁立を目標にしている。
だが、容易ではない。他方、次期衆院選で野党第1党奪取を公約とした日本維新の会(馬場伸幸代表)は全ての小選挙区に候補者を擁立すると言明。さらに藤田文武幹事長は記者会見で、立民の泉代表の選挙区(京都3区)、岡田克也幹事長の選挙区(三重3区)其々で維新の精鋭候補者が挑むと述べている。▶︎
▶︎確かに4月の統一地方選・衆参5補選で大躍進を成し遂げた維新は岸田首相(自民党総裁)にも強い危機感を抱かせた。維新の候補者公募にOBを含め霞が関官僚が多数手を挙げたとされるが、それでも現状は候補予定者が約75人前後に留まっているという。こうしたことからも「早いうちに(解散を)やってしまえ」という声が自民党内から噴出するのも無理ない。そうした声を上げるのは往々にして自らの勝算が無い者か、故安倍氏シンパが多い。曰く、安倍さんなら勝てると思ったら、一気呵成に解散を断行する。解散の大義名分など何とでもなる。その点、岸田さんは決断が遅い、というよりも決断できない人だ――。
だがしかし、現首相の岸田氏は元首相の安倍氏ではない。否、むしろ“安倍氏超え”を目指しているのではないか。レガシー(政治遺産)でのそれもあるだろうが、政治手法における“安倍氏超え”を強く意識しているフシが濃厚である。現状では会期末の立民中心のオール野党による内閣不信任決議案提出はあり得ない。立民、共産両党主導の不信任案提出には立民内の共産アレルギーで反対意見が多数あるので、こちらもまたリアリティがほぼない。野党が内閣不信任決議案を提出しないとなると、岸田氏は衆院任期が半ばに達していない6月末時点で、解散して国民の信を問う大義を何とするのか、である。岸田氏は保守本流を自任するオーソドックスな政治家である。増してや躍進の最中にいる維新を“在るべき保守”ではなく、同党の全国化阻止を“正統保守党”総裁のミッションと課しており、そのストップのためには自らが「防波堤」となる覚悟を持つとされる。そのような岸田氏には衆院議員の首を斬る解散の大義名分が必要となるはずだ。
加えて、年初1月の欧米5カ国歴訪に始まりG7 広島サミット直前までの外交攻勢に続く7月には北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(11~12日)出席など外交日程が控えている。恐らく「所得減少対応」などを理由とする2023年度補正予算を、3月末に成立した23年度一般会計予算(約114兆3812億円)を補完するものとして今秋9月召集の臨時国会に提出し、その直後に衆院を解散するのが岸田氏の流儀に適うと思われる。筆者はこれまで繰り返し言及してきたが、やはり今秋の解散・総選挙ではないか。