8月5~6日、サウジアラビア西部のジッダでウクライナ和平会議が開かれた。6月にデンマークの首都コペンハーゲンで開催された第1回会議に続くもので、今回はサウジアラビア、ウクライナ両政府が中国を含む約40カ国・機関の安全保障担当及び政務担当(PD)の政府高官を招いたのだ。当然ながらロシアは招待されなかった。ホストを務めたサウジの実力者ムハンマド皇太子の側近、ムサード安全保障担当顧問とウクライナのゼレンスキー大統領の最側近であるイェルマーク大統領府長官を始め、参加者は以下の通りである。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)、バロー英首相補佐官、プレットナー独首相補佐官(外交・安保担当)、デンマークのベアテルセン首相府次官、インドのドヴァル国家安全保障補佐官、南アフリカのムファマディ大統領補佐官(国家安全保障担当)、韓国の趙太庸国家安保室長、そして中国の李輝ユーラシア事務特別代表(元駐露大使)らである。
では、日本は?前回コペンハーゲン会議に参加したのは岸田文雄政権の外交・安保政策の司令塔、秋葉剛男国家安全保障局長であり、今回はワシントンに11月着任の次期駐米大使の山田重夫外務審議官(政務・当時)である。なぜ、山田氏だったのか。もちろん、理由がある。同氏は3月の岸田首相のウクライナ電撃訪問を水面下で準備した張本人であり、それを契機にイェルマーク氏との緊密な関係を構築した。
それだけではない。秋葉氏のカウンターパートであるサリバン氏にも面識があるだけでなく、岸田首相の中東3カ国訪問(7月16~18日)前にサウジ入りして事前交渉した相手がムサード氏であった。すなわち、秋葉氏が山田次期駐米大使の“pre debut in Jeddah”をお膳立てしたのである。「我が当局者もなかなかやるね」というのが筆者の感想である。肝心なのは、ウクライナの「領土の一体性と主権の尊重」が「和平の根幹である」との点で一致したとされる和平会議の中身だ。先ず、成果と言えるのは議論の中で、「力による現状変更への反対といった国際社会の原則(今後の和平実現の際に依拠すべき原則)」について、ほぼすべての参加国の間で認識の一致があったことである。▶︎
▶︎換言すると、この議論は広島G7サミットで始まった議論(首相が提示した「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く」など『4つの原則』)であり、それがコペンハーゲン会議を経て今回の会議の内容に継承されているということだ。確かに、中国は参加し歓迎されたが、全体の議論への内容面での貢献は無かった。
しかし、次回会合にも参加すると李氏が発言したことは留意すべきだろう。何故ならば、対露プレッシャーになる上に、インドを中心とするグローバル・サウス諸国による和平協議へのさらなるコミットメントを勇気づけることになるからだ。事実、今回の議論でも多くの国がロシアの黒海穀物イニシアティブからの脱退を非難したことを忘れるべきではない。こうした中で、筆者は日本経済新聞(電子版・7月27日付)を読んで、一瞬我が目を疑った。旧知の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT米国版のエディタ―・アット・ラージ)のジリアン・テット女史がFTのニューズレター「MORAL MONEY」(26日号)に寄稿した記事が紹介されていた。そこには「ウクライナでチタンやニッケル、鉄など発見された鉱床の価値は合計11兆5000億㌦(約1600兆円)にも上ると推計されている」と記述されていたのだ。俄かに信じ難い巨額である。「日経」の知人に原文を確認してもらった。「– including titanium, iron, neon, nickel and lithium — was estimated as being up to $11.5tn.」と、書いているではないか。
要するに、ウクライナ和平実現後の復興青写真を想定すれば、同国のリチウム、ネオンも含む重要鉱物資源(レアメタル)狙いとの見方を紹介しているのだ。それは何も資源ビジネスの観点だけでなく、ロシアによるそもそものウクライナ侵攻の企図ではないかとテット女史が指摘した。和平交渉や和平協議の背後で、得てしてこの種の利害が深く関与することは歴史が証明している。決して「真夏の夢」ではない。如何、思われるだろうか。