米バイデン政権のウェンディ・シャーマン国務副長官が7月28日に退任後、同ポストは空席だった。だが、今週になって米ワシントンの政界雀の間で後任の国務副長官候補の名前が話題になっている。最有力候補とされるのは、カート・キャンベル米国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官である。米リベラル系メディアThe American Prospect(8月25 日付オンライン記事)が報じた。米誌ビジネス・ウィークの元コラムニストで、80歳現役のロバート・カットナー氏が寄稿した。8月18日にメリーランド州のキャンプデービッド(大統領の山荘)で行われた日米韓首脳会談の共同声明とりまとめからロジスティックまで統括したのがキャンベル氏だ。もう一人の候補は、ジョー・バイデン大統領のスピーチライターであるジョン・ファイナー大統領次席補佐官である。バイデン氏がオバマ民主党政権副大統領時代の国家安全保障担当補佐官だったイーリー・ラトナー国防次官補(インド太平洋担当)と共にバイデン氏を支えたことは周知の通り。日本でも馴染みが多く「知日派」として知られるキャンベル氏だが、2013年にコンサルティング会社「アジアグループ」を設立し、中国進出を目指す防衛関連企業やIT企業に助言を行うなど“ビジネス志向”が強すぎるとの指摘もあったことが思い起こされる。それ故に、上院での人事承認が難航するとの懸念が少なくない。
ここで筆者が注目するのはThe American Prospectのカットナー氏の寄稿文だ。同記事には次のような件がある。《彼は政府とのコネクションやアクセスを利用して彼らの利益に貢献した。キャンベルは基本的に貿易利益の仮面をかぶった企業の希望リストであった。今は廃案となったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の大きな推進者でもあった。もし国務副長官に指名され、承認されれば、キャンベルは回転ドアの経歴を持つ他の2人の外交政策高官に加わることになる》。かなりショッキングな内容だ。この「他の2人」とは、バイデン大統領の最側近であるアントニー・ブリンケン国務長官とジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)その人である。「えぇ~ブリンケンとサリバンもその手合いなの?」という声が聞こえてきそうだ。▶︎
▶︎詳細を極めた同誌調査報道によれば、注目すべきはワシントンに本拠を置くコンサルティング会社WestExec Advisorsの存在である。そして同社の共同設立者がブリンケン国務長官であり、国防総省でインド太平洋政策を担うラトナー氏もまた同社出身というのである。早速、英語版ウィキペディアでWestExec Advisorsを検索し、そして驚いた。共同設立者・パートナーとして最初に写真付きで名前が記述されていたのはミシェル・フロノイ元国防次官(政策担当)である。もちろん、オバマ民主党政権時代だ。その他、幹部として名前を連ねているのはジョン・ブレナン元米中央情報局 (CIA)長官、ビンセント・ブルックス前在韓米軍司令官(退役陸軍大将)、エリック・グリーン元米NSCロシア担当上級部長、エミリー・ホーン元大統領特別補佐官(広報)、ダニエル・ラッセル元国務次官補(東アジア・太平洋担当)、ビクラム・シン元国防次官補代理(南アジア担当)など歴代民主党政権の要路を占めた人物の名前が続く。CIAを含む16の米情報機関を継活するアブリル・ヘインズ国家情報長官もまた同社出身である。
そして肝心なのは、ブリンケン氏、フロノイ氏に加えて、セルジオ・アギーレ元駐国連米大使首席補佐官、ニティン・チャダ元国防長官上級顧問の4人が2017年の同社創設メンバーであることだ。確かに、米国では4年に1回の政権交代時に「人材の回転ドア」と呼ばれる政府と民間の人材交流が実施される。それでも政府元高官と、せいぜい有力シンクタンク幹部の入れ替えが一般的だったと思う。日本では想像外の政府要路への人材供給システムなのだ。米国は「情報先進国」であるが、ふと頭に浮かんだ言葉は最近メディアで頻繁に見かける「忖度」と「便宜供与」であり、「情報リーク」と「機密流出」である。如何お考えだろうか――。