10月24日、第7回未来投資イニシアチブ(Future Investment Initiative=FII) が サウジアラビアの首都リヤドのリッツ・カールトン・ホテルで開幕した。因みに日本経済新聞(25日付朝刊)はFIIを「国際投資会議」と表記するが、「未来投資イニシアチブ」の方が実態に適っている。同国の実力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の肝いりでスタートしたFIIは金融関係者の間で「砂漠のダボス会議」と呼ばれる。同皇太子が推進する石油依存経済からの脱却の中核を担うのが運用資産7780億㌦(約117兆円)のサウジ政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(Public Investment Fund=PIF=ヤセル・ルマイヤン総裁)である。イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの激烈な戦闘が続くことを念頭にルマイヤン総裁は開幕式冒頭に、「現在の世界は不確かなものに見えるが、我々はより強い社会を構築しなければならない」と述べた。ガザを巡る抗争がエスカレートするリスクを認めたに等しい。
そうした緊迫する中東情勢のなか注目すべきは、このFIIに米ウォール街の金融業界トップが揃い踏みで参加したことである。世界有数の金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)、グローバル金融最大手ゴールドマン・サックス(GS)のデービッド・ソロモンCEO、資産運用最大手ブラックロックのラリー・フィンクCEO、大手金融機関シティグループのジェーン・フレーザーCEO、投資大手カーライル・グループのハービー・シュワルツCEO、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツのレイ・ダリオ創業者らが蝟集した。何もFIIに参加したのは金融業界の超大物だけではない。米石油メジャーの大物を始め世界各国から石油・ガス業界のトップも馳せ参じた。石油メジャー最大手のエクソン・モービルのダレン・ウッズCEO、フランスの総合エネルギー企業トタル・エナジーズのパトリック・プヤンヌCEOらも会議の合間を縫って、激動の中東情勢に関する意見交換や原油価格についてサウジのアブドルアジズ・ビン・サルマン・エネルギー相や国営石油会社サウジアラムコのアミン・ナセルCEOと協議している。▶︎
▶︎筆者がサウジ主催の未来投資イニシアチブ(FII)年次会議の報道(ロイター通信、米ブルームバーグ及び日経新聞)に接し、その背景を深掘りして得たポイントは唯一つ。先ず指摘すべきは、この間、米金融機関の勢力図が大きく変貌したということである。際立つのは金融大手のゴールドマン・サックスの業績不振だ。年初の1月17日、GSのソロモンCEOは22年12月期決算を発表したが、純利益が前期比48%減の112億㌦(約1兆4000億円)だった。今年になっても不振は続き、7~9月期純利益は33%減の20億㌦(約3000憶円)と21年10~12月期から8四半期連続の2桁減益となった。主力の投資銀行ビジネスの不調と得意とするM&A(合併・買収)助言の低調が大きい。GSに「金融界の巨人」という往年の面影はない。一方、JPモルガンは7~9月期が35%増益の131億㌦(約1兆9500億円)に達し、GSの6倍超である。
今年に入ってからの金利上昇で融資などから生じる純金利収入の伸びが著しい。ブラックロックと共にJPモルガンの好調は、米金融界の関心を集めている。そのJPモルガン・アセット・マネジメントの広告「アメリカ成長株ファンド・アメリカの星」(全面3分の1段)が日本経済新聞(10月26日付朝刊)の最終面(48面)に掲載された。9月25日、10月12日に続く3回目だ(昨年は7月4日を含め4回掲載)。米国株推奨のキャンペーンである。この彼我の差はどこから来るのか。もちろん、個人向け(リテール)事業の規模の差もある。何よりもそれは一に懸かってJPモルガンのダイモン氏の頭抜けた経営手腕に負うものだ。同氏の複眼は日本を見据えつつ、サウジアラビアにも向けられる。さらに戦後復興を視野にウクライナも俯瞰する。果たして「投資される日本」を目指す岸田文雄首相はその期待に応えられるのか。