今,永田町で密かに取り沙汰されている岸田文雄首相の「3月20日訪韓」説は次のような経緯で首相官邸が隠密裏に計画していたのである。そもそもは官邸サイドに韓国大統領府側から非公式に岸田首相の3月中旬訪韓を打診されたのは昨年11月後半のことだった。
本誌取材を基に再現すると,大統領府国家安保室(当時室長・趙太庸現国家情報院長,現室長・張虎鎮元外務第1次官)最大の実力者であり,尹錫悦大統領の信頼が厚い金泰孝第1次長が秋葉剛男国家安全保障局長に持ち掛けたという。秋葉と金の2人は,2023年初頭から水面下で協議を重ね,3月に尹大統領の日本訪問を実現したカウンターパートであった(因みに当時の表向きのカウンターパートは趙室長)。12年ぶりの韓国大統領の単独来日実現とその後の画期的な日韓関係改善は尹錫悦が対日関係強化に舵を切った政治決断に負うところ大である。事実,同5月のG7広島サミット時の日韓首脳会談,8月の米キャンプデービッドの日米韓首脳会談,11月の米サンフランシスコのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議時の日韓首脳会談などを通じて岸田,尹両首脳の信頼関係はより深まった。
全てのトップ会談に両氏が同席したのは言うまでもない。とりわけ金はサンフランシスコで,両首脳の信頼関係構築ぶりから21年12月にジョー・バイデン米大統領が提唱・主催したオンライン形式「民主主義サミット」(100超の招待国・地域)の24年第3回開催をソウルに誘致できたこともあり,同サミットを日米韓首脳の対面参加で行う計画を発案したとされる。スタートラインはそこにあった。▶︎
▶︎改めて指摘するまでもないが,一方で3月20,21日にソウル市内の高尺スカイドームで米大リーグのロサンゼルス・ドジャースとサンディエゴ・パドレスの開幕戦(夜間試合)がある。ドジャースの大谷翔平選手と山本由伸投手の人気が沸点に達し,チケットのプラチナ化だけでなく大手旅行社の高額野球観戦ツアーも抽選騒ぎとなるほど国内は大盛り上がりだ。たとえ国民的大関心事となったとはいえ,民主主義サミット最終日20日夜に狂騒状態のスカイドームに岸田が尹に伴われて現れたらどうなるか。自民党派閥の政治資金パーティー券収入の裏金化疑惑を巡る国会審議の最中に野球観戦とは何事だと袋叩きに遭うのは必至だ。岸田官邸が期待する大谷人気に便乗した内閣支持率上昇どころか,マイナス要因となる可能性の方が高い。こうした「正論」もあり,その期待も萎んだかに見えた。
だが今なお首相訪韓の可能性を探っている。18日から実施される民主主義サミット最終日は各国首脳がオンライン参加の本会議だ。現時点で尹政権が日程詳細を発表していないのは,世界一多忙なバイデンの参加時間が確定できないからである。米国(東部標準時)と日韓両国の時間差は14時間。バイデンの超過密日程と高齢を考慮すると,20日の各首脳が参加する会議開始は午前11時(ワシントン時間19日夜9時)がギリギリである。それは逆に岸田が祝日早朝に羽田空港を政府専用機で発てば対面参加を可能にする。故に変数が多いシミュレーションを繰り返しているのだ。官邸周辺から「まだ行くかどうか全く未定です」との声が聞こえて来るが,訪韓するにしても政治的に危うい判断であることは確かである…(以下は本誌掲載)申込はこちら