2月15日夜、米国人の知己リチャード・カッツ氏(ニューヨーク在住)と久しぶりに会食した。この数年間、同氏が出版に向けて全力投球してきた単行本を上梓し、先立つ7日に東京・丸の内の日本外国特派員協会(FCCJ)での夕食講演会に招かれて来日したのだ。英オックスフォード大学出版局から刊行された『The Contest for Japan’s Economic Future : Entrepreneurs vs. Corporate Giants』である。翻訳は今年後半に早川書房から出版される。カッツ氏とは40年来の知己というよりも盟友と言うべき間柄だ。同書の「謝辞」に言及されているニュースレター(月刊)「ザ・オリエンタル・エコノミスト(TOE)」の編集長がカッツ氏であり、筆者は東京支局長である。
そして同氏は本書執筆のためTOEを休刊し、ブログ「ジャパン・エコノミー・ウォッチ」を立ち上げ、主たる発信場にしている。日本経済の分析を専門とする同氏に、「失われた30年」の日本経済再生のための処方箋を聞いてみた。本書を手に同氏が示したパラグラフには次のように記述されていた。<グッドニュースは、日本が一世代で初めてその歴史を書き換える可能性を秘めていることです。表面的には、経済は手に負えないほど停滞し政治はがっかりするほど無反応にみえる。▶︎
▶︎しかし水面下では、市民社会の地殻変動につながる6つのメガトレンドから希望の理由が生まれています。これには、あらゆる種類の考えにおける世代交代、古参と新参者の間のパワーバランスを変える技術革新、ジェンダー関係の変化、人口動態の逼迫の影響、グローバリゼーションの刺激効果、低経済成長によって引き起こされる政治的ストレスなどが含まれます。この本が数十年前に書かれていたら、十分な規模での起業家精神の復活は夢のように思えたでしょう。これまでの企業は強すぎた。
しかし、今日、メガトレンドは新しい可能性を切り拓いています>。カッツ氏は、70年代のオイルショック以降、日本の指導者は社会の安定を優先して創造的破壊に手を付けなかったと言いたいのだ。加えて、その安定の要となった雇用大事とばかりに政治家が「ゾンビ」企業の生き残りに補助金を湯水のようにバラ撒いてきたと。加えて、創造的破壊の放棄は日本の成長が貧血状態にある理由だとする同氏は、日本が新自由主義のような外国のモデルを接ぎ木する必要はないとも断じる。日本社会の起業家精神を解き放つため、権力の要路を占める人たちに本書を読んで頂きたい。