4月10日の韓国の総選挙まで1カ月を切った。尹錫悦政権は保守系少数与党「国民の力」の議会過半数(151議席)奪取を目指す。一方の進歩系最大野党「共に民主党」は国会で過半数を握る第1党維持に全力傾注する。2月9日、共に民主党元代表の李洛淵元首相と、「国民の力」の李俊錫元代表はそれぞれ昨年末と今年初頭に離党、新党「改革新党」を結成した。韓国政界に「第三勢力」登場と、一躍注目を集めた。
ところが両氏の主導権争いで僅か10日後に破綻した。先週、駐韓公使(政務担当)経験のある元外交官は筆者に「現状では与党がやや優勢だが、国民の力、共に民主党も単独過半数に届かず、両党は130議席前後に終わるのではないか」と語った。
同氏が注目するポイントは2つ。その(1)は韓国のソウル、釜山に次ぐ第3の都市、仁川市選挙区が総選挙の焦点である。李在明・共に民主党代表の地元であり、「国民の力」の元喜龍・前国土交通部長官が挑む。先月下旬、「国民の力」非常対策委員長(事実上の党代表)の韓東勲・前法務部長官が応援のため仁川市入りし、追い上げているという。弁舌さわやかで、50歳と若いうえにナイスルッキングの韓氏は今や同党の「選挙の顔」となっている。この韓氏も先の元氏も、実は尹大統領と同じ検事出身だ。▶︎
▶︎その(2)は、まさに尹政権の要路が検察OBで占められているとして、共に民主党は「検察独裁政権」との批判を繰り返していることである。すなわち、この検察批判キャンペーンがどれだけ国民に浸透するのかがポイントというのだ。ちなみに件の元外交官は元、韓両氏とは知己であり、それゆえに「少々、甘い点数と言われそうだが、当選の暁には要職に就くのは間違いない」と付言した。文在寅前政権時代に悪化した日韓関係の修復と、関係強化を尹大統領と手を携えて進めてきた岸田文雄首相の本音は、当然のことながら少数与党「国民の力」が多数派に転じ、尹政権の安定化であろう。
しかし、肝心の岸田政権の内閣支持率が低迷し、政権与党の自民党が政治資金疑惑の直撃を受けてこれまで経験したことがないほどの支持率急落の憂き目にある。昨年末には日本で「尹政権は総選挙で敗北、今春以降レームダック化する」と懸念する向きが少なくなかった。ところが今や立場が逆転したようだ。岸田氏と馬が合う尹氏が「岸田さん、大丈夫ですか」と心配しているとの声がソウルから届く今日この頃である。