最新の共同通信社とNHKの世論調査が岸田文雄政権のみならず永田町関係者に衝撃を与えた――。 先ずは共同通信調査(3月9~10日実施)で驚くべきは政党支持率である。自民党:前回比7ポイント減の24.5%、公明党:0.5P増の4.1%、立憲民主党:1.1P増の10.1%、日本維新の会:0.5P減の8.9%、共産党:1.1P増の4.7%、国民民主党:0.6P増の3.1%、教育無償化を実現する会:0.1増の 1.5 %、れいわ新選組:0.8P増の4.3%、社民党:0.3P減の0.4%、参政党:0.1P増の0.9%、その他:0.4P減の2.6%。自民党支持率と、立民、維新、共産、国民、「れいわ」などオール野党の支持率を足した数値を比較する。自民24.5%vs野党36.5%である。これまでの調査では、自民支持率がオール野党支持率を上回ることが常態化していた。
ところが、今や一転してオール野党が12Pもの大差をつけて自民を上回ったのだ。 永田町で「選挙の神様」と呼ばれる選挙・政治アドバイザーの久米晃・元自民党本部事務局長は「この間の派閥政治資金疑惑によって自民支持層の“自民離れ”が急速に進み、支持率の大幅下落を招き、今や岸田政権は深刻な事態に直面している」と語る。それだけではない。次はNHK調査(8~10日実施)の政党支持率で自民党支持と無党派(支持なし)を比較する。自民党支持率28.6%、無党派42.4%。2012年12月の第2次安倍晋三政権発足後、自民党支持率が20%台に落ち込んだのは、岸田政権の最近の2回(23年12月と今月)だけである。
これは、自民党減少分が野党に回ったということではなく、全体に占める無党派の割合が増えて昨年12月から4カ月連続で40%台を占めている。自民党に対する国民不信の高まりはもちろん、岸田政権の支持率低迷にも連動する。共同通信調査では今年1月からの内閣支持率(%)は27.3→24.5→20.1と下落が続き、不支持率が57.5→58.9→64.4と上昇している。このように政権・与党にとって厳しい逆風にさらされる中で、岸田首相はこれまでに危機打開のためカードを2枚切っている。1枚目は1月18日の「岸田派解散」声明。これがトリガーとなって麻生派と茂木派を除く各派閥・グループは解散を余儀なくされた。と同時に、麻生太郎副総裁との間に隙間風が吹き、茂木敏充幹事長とは修復不能な関係にあるとされる。いわゆる「三頭政治」が瓦解したのだ。▶︎
▶︎2枚目のカードが、2月29日の現職首相として憲政史上初めて衆院政治倫理審査会に出席したことだ。改めて指摘するまでもないが、岸田氏の政倫審での発言・説明は、派閥パーティー券収入の政治資金収支報告書への不記載=裏金化の真相究明に程遠いものであった。事実、この首相対応について共同通信調査は「評価する」が37.1%、「評価しない」は54.0%だった。相次ぐ打開策が奏功したとは言いがたい。岸田氏からすれば「派閥解散」と「政倫審出席」のいずれも過去に例がない政治決断をしたと言い募りたいところだろう。
だが、如何せんスピード感がないのだ。追い詰められて下した決断との印象は否めない。折しも2月16日~3月15日まで確定申告が行われている。一般の納税者は収入を自己申告して所得税を払い、申告漏れがあれば追徴金を払う。だが、「政治活動費は課税されない」という現行法に不満を抱く納税者が噴出するのも、国民の怒りを買った「裏金の使途不明」からすれば至極当然なことだ。
そうした中で、岸田氏はいま3枚目のカードを切る準備をしているとされる。それは、4月の首相訪米(9~14日)前の自民党執行部人事説である。具体的には茂木幹事長の去就だ。首相の幹事長不信は強まる一方で、当の茂木氏は岸田氏を見限ったとされる。幹事長交代があるとすれば、後任の最有力候補は下馬評にある森山裕総務会長(無派閥)ではなく野田聖子元自民党幹事長代行(同)である。岸田氏とは93年7月総選挙初当選の同期であり、今や「無派閥という派閥」の中核である菅義偉前首相、そして浜田靖一党国対委員長(同)とも良好な関係である。現状では9月の総裁選までの衆院解散・総選挙の可能性は遠のいたとの見方が支配的になりつつある。だが、岸田氏は6月末の通常国会会期末に乾坤一擲の解散に踏み切る際の「新生自民党」の顔として野田氏を想定しているというのだ。如何なものだろうか。