岸田文雄首相のバイデン米大統領主催公式晩餐会(現地時間4月10日夜)での挨拶と米連邦議会上下両院合同会議での演説(同11日午前)は米側で大いに受けた。
もちろん、理由がある。ジョークを交え、ウィットに富んだ会話が好まれる米国社会では、そうしたスピーチやパフォーマンスが高い評価を得る。首相演説や挨拶は通常、首相官邸の秘書官グループが作成する。外遊先でも基本は同じ。ただ、安倍晋三首相時にはプロのスピーチライターがいた。歴史に残った「希望の同盟」と題した安倍氏の米議会演説(2015年4月)の草稿を書いた谷口智彦氏である。同氏は海外の訪問地、外国向けスピーチすべてに関与した類例がないケースだ。では、なぜ今回の岸田氏のそれが米議会でスタンディングオベーション16回、晩餐会で大笑いを獲得したのか。
そう、知見と経験がある米国人スピーチライターに助言を仰いだからだ。その人物及び事務所名を、官邸も外務省も在米日本大使館も固く口を閉ざして決して明かさない。取材した限りで言えば、ロナルド・レーガン元大統領(1981年~89年)のスピーチライターを務めた人物である。スピーチライター経験者のダナ・ローラバッカー下院議員(共和党・カリフォルニア州選出)ではない。当該者は2000年代初めワシントン市内にすでに事務所を持っていた男性。外務省OB数人は今も知己だとされる。▶︎
▶︎ここから先の情報を探りあぐねている。それはともかく、なぜ固執するのかにもやはり理由があるのだ。首相演説のドラフトを準備したのは大鶴哲也首相事務秘書官(1991年外務省入省)。その大鶴氏が2カ月余かけて書き上げた英文草稿に、助言者の手になる箇所が多く散見する。日米関係専門家が指摘するのは、議会演説の「米国は独りではない、日本が共にいる」と「面白かったアニメのフリントストーン」の表現とエピソードである。前者の表現は心底米国人が好むものであり、後者のエピソードは60年代の中産階級が家族揃って観ていた番組である。
一方の乾杯挨拶には岸田氏がアドリブを交えたこともあるが、高視聴率のSFドラマ「スタートレック」の有名はセリフを引いたことだった。これにはロバート・デ・ニーロらが拍手喝采で応えたという。要するに、岸田氏スピーチは安倍氏のそれと異なり、聴衆の気分盛り上げに重きを置いたものだった。岸田氏の本性とはかけ離れていると感じるのだが、如何思われるか。