5月23~24日、中国人民解放軍で台湾を含む南シナ海方面などを管轄する東部戦区(司令部南京市)は台湾をほぼ取り囲む海域で陸・海・空とロケット軍合同軍事演習を行った。言うまでもなく、同20日に就任した台湾の頼清徳総統が「中国に隷属しない」と発言したことに反発し、「強力な懲罰だ」(東部戦区報道官)とした。ここで想起すべきは、2022年10月に決定した中国共産党中央軍事委員会(主席・習近平総書記)制服組トップの新陣容だ。ナンバー2の張又侠副主席は習氏と父同士が国共内戦時に同じ部隊に所属していたこともあってか、定年(68歳)が適用されず留任した。当時、中国ウォッチャーの注目を集めたのが、何衛東・東部戦区司令官(大将)が副主席に昇格したことだ。習氏が台湾方面を担う現場作戦の責任者である何氏を高く評価・抜擢したとされた。
やはり思い出すのは党中央軍事委員会人事の2カ月前の出来事だ。ナンシー・ペロシ米下院議長(当時)は中国側の強い反対に抗して台湾訪問を強行した。その直後、中国が台湾周辺で行った大規模軍事演習を準備したのが他ならぬ何氏だ。沖縄県与那国島の沖合約80㎞に中国弾道ミサイルが着弾したことを忘れるはずがない。▶︎
▶︎それはともかく、他の軍事委員会メンバー入りは李尚福・装備発展部長(後に国防相に起用されたが23年10月に汚職容疑で更迭)、劉振立・陸軍司令官(現統合参謀本部参謀長)の2人。苗華・軍事委政治工作部主任と張昇民・軍事委規律検査委員会書記は留任した。その後、人民解放軍の調達部門やロケット軍での粛清が相次ぐ中で、何衛東将軍への習主席の信頼は強まる一方だ。習近平指導部の究極目標が「台湾統一」であることは疑いない。しかし、台湾に民進党政権が3期連続して誕生したからといって直ちに武力侵攻に踏み切ることはない。
それでも「27年軍事侵攻」説は根強い。この間、トランプ前政権で大統領副補佐官(国家安全保障担当)を務めたマット・ポッティンジャー氏の日本経済新聞(17日付)へのコメントを興味深く読んだ。「米国、台湾、日本が戦争への準備を備え、強化すれば、中国を抑止できる可能性は十分ある」の件である。軍歴(海兵隊情報将校)と言論界歴(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル北京特派員)があり、流暢な中国語を操る希代の戦略家の同氏指摘に得心する。