7月13日夕方(米東部時間・日本時間14日早朝)、米東部ペンシルベニア州バトラーで行われた選挙集会で演説中のドナルド・トランプ前大統領が銃撃された。
だが弾丸は同氏が瞬間右に向き㍉単位で逸れて右耳を貫通したにとどまり、九死に一生を得た。2日後にウィスコンシン州ミルウォーキーで開催された共和党大会初日は、顔を見せた同氏を「神に選ばれし人」と崇め、熱狂する観衆で埋め尽くされた。奇跡をもたらした殉教者扱いであり、同党大会は急進的なキリスト教信者(敢えて言えば、トランプ教信者)が集う宗教集会さながらであった。テレビ映像で観ていて、キリスト教保守派の福音派(エバンジェリカル)信徒が多い南部から中西部にまたがる「バイブル(聖書)ベルト」で催されたのではないかと錯覚するほど宗教色を強く感じた。公式記録によればトランプ氏はキリスト教プロテスタント長老派、と記されている。福音派などと比較して教義・戒律は厳しくない。トランプ政権時のマイク・ペンス副大統領は熱心な福音派信徒である。▶︎
▶︎そして、ペンス氏の豊富な下院議員キャリアと宗教観に根ざす忠誠心に加えて、「バイブルベルト」の福音派を含む保守層の支持を得るために副大統領候補に指名したことは今や公然の事実だ。
すなわち、トランプ氏は究極的なプラグマティスト(功利主義者)である。①「ディール(取引)」を全てに優先する、②究極のポピュリスト故に「短期的に売りにならない」アプローチを嫌う、③競争相手を打ち負かせば、相手は自らの非効率性の累積によって沈む、という合理的な思考回路の持ち主、④相手に「君はオレの味方か、敵か?」の二択の問いで迫る。分かり易いのだが、不確定要因の“人たらし”が時として評価を見誤らせる。具対例が共和党大会3日目に起こった。「ゴールドスター・ファミリー」と呼ばれる家族が演壇に登場した。米国では第1次大戦に遡り、兵士の家族は従軍する親族のために青星の旗を自宅前に掲げ、戦死すれば金星に替えた。
今回は米軍のアフガニスタン撤退作戦中に息子や夫を亡くした遺族が登壇し、バイデン大統領は一度も面会しなかったが、トランプ氏は6時間も慰めてくれたと証言した。一方で大統領在任中の2019年11月にアフガンの米軍基地を電撃訪問し、短時間の慰問で兵士を魅了したことは今や語り草だ。人の心をわし掴みするのに長けている。こう綴っていると、トランプ氏が大統領にならない理由が見当たらない。