政界では「絶妙のタイミング」とよく言うが、まさに本件が好例である。岸田文雄首相の最側近、自民党の木原誠二幹事長代理が、7月24日の講演で「首相の総裁選出馬断念はないと思っている」と語った。東京・平河町のホテルルポール麹町で開かれた政治評論家・篠原文也氏(元テレビ東京解説委員)主催の昼食勉強会での発言である。「これまでの(岸田政権の)成果に自信がある。政策にも自信がある。(総裁選には)堂々と出れば戦える」――木原氏発言の肝だ。木原氏は22日午前8時29分から約40分間、首相公邸で岸田氏と会っている。当然、2日後に予定される講演で首相の総裁選出馬の可能性言及について協議している。
ではなぜ、絶妙なタイミングなのか。自民党関係者を含め永田町ウォッチャーの間では、内閣支持率の低迷が続く一方で、政治資金規正法違反(裏金)事件による自民党支持率の急落もあり、党内若手から岸田氏の下で次期衆院選は戦えないとの声が高まり、総裁選に出馬できないとの見方が支配的である。
要は、ジョー・バイデン米大統領が大統領選からの撤退を余儀なくされたように岸田氏も同じ運命を辿るというのである。 ▶︎
早くに「岸田降ろし」の号砲を鳴らした菅義偉前首相を中心とする反岸田勢力は活発化している。 菅氏の手札となる岸田後継カードは2人。石破茂元幹事長と小泉進次郎元環境相である。反岸田の旗幟を鮮明にした菅氏の手にあるカード「石破首相・小泉官房長官・森山裕幹事長」は最強トリオだった。だが、石破氏に不信感を抱くようになった菅氏の最新カードは「小泉首相・齋藤健官房長官・石破幹事長」に替わったというのだ。 こうした情報や見立てにどれだけリアリティがあるのか。それを見極めるにはお盆休み明けまで待つ必要がある。
ここに来て、9月20日(27日)とされる総裁選に高市早苗経済安全保障相だけでなく野田聖子元総務相も手を挙げる構えだ。24日夜、前回総裁選時にも相談に乗った浜田靖一国対委員長らと出馬について協議している。
一方、若手が小林鷹之前経済安保相を担ぐ動きを見せる。総裁選出馬を前提に「外交力」をアピールする茂木敏充幹事長は現在東南アジア4カ国を歴訪中だ。シンガポールのウォン首相ら各国首脳との会談が予定される。「絶妙のタイミング」に戻る。担ぐ人も担がれる人も「岸田氏不出馬」を前提にしていた。因って選挙戦略を変えなければならない。岸田氏にフォローの風が吹き始めたなか現職を追い落とすには確たる「大義」が必要なのだ。