「風向き(ルビ・トレンド)」という点では政治の世界は古今東西何処も同じようだ。これまで以上に「国内の分断」の加速が危惧される米国もまた例外ではない。ドナルド・トランプ前大統領は半自動小銃で125㍍の距離から銃撃されて九死に一生を得た。銃弾の右耳貫通で鮮血滴るなか警護員の制止に抗して右拳を突き上げて「fight(戦う)」を繰り返すトランプ氏の写真1枚で、世界中の誰もが「もしトラ」は「ほぼトラ」になったと確信したはずだ。風向きは完全にトランプ氏にフォロー(追い風)になったと。
事実、ご本人が大統領選勝利をほぼ掌中に収めたと思ったからこそ、自分以上に「MAGA(メイク・アメリカ・グレト・アゲイン)主義者」のJDバンス上院議員(オハイオ州選出・共和党)を副大統領候補に指名したのである。言ってみれば、教祖超えのトランプ教の過激信者なのだ。トランプ氏がバンス氏を指名したのは、女性・黒人票や若者を含む無党派層の投票行動を考慮する必要がないと判断したからである。▶︎
▶︎ところが、「米国の分断」の象徴でもある民主党の左派と中道派の分断が僅か一夜にして結束した。「Never Trump」の一言が持つ磁力である。
それが、現在進行形の「ハリス現象」となって降って沸いた。カマラ・ハリス副大統領の民主党大統領候補指名で、歴代民主党大統領から全米自動車労働組合(UAW)、ウォール街の金融トップ、西部シリコンバレーのIT企業創始者、ハリウッドのエンターテイメント・ビジネス、東部の有名大学関係者までが蝟集したのだ。効果はてきめん。一部メディアの世論調査ではハリス支持がトランプ支持を上回ったり、立候補の表明後一週間で献金を2億㌦(約300億円)集めたという。 その極めつけが英紙フィナンシャル・タイムズ(7月26日付)の記事「チーム・カマラ:ハリスのホワイトハウス運営を裏面で支えた人々」である。ハリス人脈の固有名詞が並ぶ同紙を精読すると、万が一「ハリス大統領」が誕生した時の大統領首席補佐官、国家安全保障担当及び国家経済担当大統領補佐官、国務、国防、財務、商務長官ら主要閣僚候補と名指しこそしていないが実名を挙げている。
中でも驚いたのは臆測とするが、ラーム・エマニュエル駐日米大使がハリス選対本部責任者と報じられたことだ。確かに今現在、ハリス氏に勢いはある。だが「ほぼトラ」が減じたとはいえ、トランプ氏やや優勢に変わりはない。