『世界秩序が変わるとき―新自由主義からのゲームチェンジ』(文春新書)が政・財・官界で大きな話題になっている。著者は、米投資コンサルティング会社オブザーバトリー・グループ共同経営者の齋藤ジン氏である。1993年に勤めていた都銀を辞めて単身で渡米し、首都ワシントンのジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題大学院(SAIS)に入学。修士号取得後、95年にマクロ・ヘッジファンドの雄とされたG7グループ(社長=ジェーン・ハトレー現駐英大使)入社。2007年、ハトレー氏と共にオブザーバトリー・グループを設立。すなわち、彼の地ワシントンで資産運用業界の黒子に徹してきた齋藤氏は怜悧冷徹な目で日本の「失われた30年」を観察してきたのである。
ではなぜ今、新自由主義からのゲームチェンジなのか―。「日本は今、数十年に一度の大きなチャンスを迎えている」と齋藤氏は断じるのだ。そもそも同氏が「伝説のコンサル」と言われたのは、米最大のソロス・ファンドが12年末に円売りだけで10億㌦の利益を叩き出した際の逸話が関係する。▶︎
▶︎当時、創業者ジョージ・ソロス氏の右腕だったスコット・ベッセント氏が齋藤氏のレポート「日銀改革と日本の転換点」を読み、助言を求めた。そしてソロス・ファンドは円売り・日本株買いの大勝負に打って出たのだ。このベッセント氏こそが、1月20日発足のトランプ政権の財務長官なのだ。想起すると17年夏頃、財務省の岡本薫明主計局長(元財務次官)に「OBSERVATORY VIEW」のコピーを頂いたのが最初の出会いだった。ご本人と対面で長時間、話を聞く機会を得たのは翌年10月。
その後、年2回ペースで来日する同氏は多忙の中で時間を割いて日米関係を中心に政治・経済情勢分析を披瀝して下さる。それは毎回刺激的な時間だ。そうした貴重なレクチャーの総集編が本書である。幾つか紹介したい。<トランプ現象は一種の早期警戒警報と解釈できる。米国のシステムがおかしくなっていると警鐘を鳴らしているのだ> <新自由主義による市場ベースの意思決定が揺らぎ、産業政策が許される時代になると、日本の政・財・官のゴールデン・トライアングルが再び活躍する> <若者失業率20%の中国は27年までに1000万人に達する。この怒る若者を吸収できるのは軍と戦争以外に見当たらない> 十倉雅和経団連会長も正月休みに読んだと仄聞する。元気になる一冊だ。