2月8日午後9時35分,石破茂首相はドナルド・トランプ大統領との日米首脳会談を大過なく終えて帰国した。同7日午前11時55分(米東部時間)からの少人数会合,続く拡大会合・ワーキングランチまでの約1時間50分とその後に行われた共同記者会見約40分間の計2時間半に及んだ長丁場について,政・経・官・学界からの評価がそこそこ高く,帰国後の石破はすこぶる機嫌がいい。経済界国際派の有力者は石破の対米スタンスを次のように評定する。「予測不能のトランプに気後れせず,それなりに対峙できたので100点に近いと言っていい。特に日米共同声明に自由で開かれたインド太平洋実現と台湾海峡の重要性が盛り込まれた。これは評価できる。しかし中長期の視点からすると,喫緊の課題であるウクライナ情勢の『ウ』の字もなかったし,懸念される米中貿易戦争との絡みで日本への言及がゼロだったので30~40点」。
それにしても石破にとって,知見と経験がなかった外交での合格点である。その上に自信を深めているのが,少数与党下で石破政権にとって最大の難関だった2025年度予算の年度内成立が確実となったからだ。予算案修正は既定路線だったものの,暫定予算を組まずに年度内に自然成立するには3月2日まで衆院を通過させなければならない。2月21日,日本維新の会が求めていた高校授業料無償化について,自・公・維が合意した。維新は先の衆院選で公約した政策の実現を予算案賛成の前提条件としていた。3党の賛成で衆院の過半数を確保。石破は初めてハードルを超えることにホッと一息ついた形だ。▶︎
▶︎この関門超えで今国会中,自民党内から「石破降ろし」はほぼなくなったという見方が支配的である。3党合意内容は①今年度から公立・私立ともに「年収910万円」の所得制限を撤廃②26年度から私立高校に通う生徒の支援金を45万7000円(現行39万6000円)に引き上げ③小学校の給食無償化は26年度実施を目指す,などだ。自民による多数派工作の与野党協議は,国民民主党との「年収103万円の壁」が先行していたが,財源問題で暗礁に乗り上げ,維新に追い越された格好だ。国民の主張する「173万円」引き上げだと7~8兆円の財源が必要だとされる。
一方の維新の教育無償化だと総額6000億円で済む。石破官邸も財務省も野党を取り込むにはどの党とのディールが「お買い得か」で算盤をはじき,安上がりを選択したようだ。維新との合意の裏面で2つの裏チャンネルが機能した。石破と維新共同代表の前原誠司の個人的繋がりがあげられる。二人は鉄道が趣味の「鉄ちゃん」仲間で,安保政策に精通している共通点がある。石破が「党内野党」と皮肉られてきた当時から,前原とは気脈を通じる数少ない相手だった。石破,前原は年初から水面下で数回接触している。2つ目は昨年9月の党総裁選で石破支援のまとめ役を務めた菅義偉元首相が官房長官時代から密接な関係を持っていた元維新代表の松井一郎元大阪府知事・市長と密かに動いたのは間違いないようだ。念頭に「大阪万博」があったのは言うまでもない…(以下は本誌掲載)申込はこちら