石破茂首相(自民党総裁)の衆参院国政選挙2連敗の責任を追及する麻生派、旧安倍派、旧茂木派は早期の臨時総裁選実施を求める一方で、石破氏の暫時続投を主張する勢力は政治空白を生みかねないと総裁選前倒しを強く批判する。9月2日に開催される衆参院議員総会で参院選敗北の総括報告書を公表後、臨時総裁選の実施の賛否を両院国会議員と全国都道府県代表に確認する手続きが始まる。総裁選前倒し派と首相続投派の水面下の激烈な綱引きは、その賛否確認の方法を巡る対立だ。
すなわち、続投派が各人の記名・捺印付き文書提出を言い募れば、前倒し派は通常総裁選通り無記名投票で行われるべきと反発する。その確認方法を決める総裁選挙管理委員会(逢沢一郎委員長)委員11人の内訳は、党執行部(森山裕幹事長)が補充委員の人選を行ったことでも分かるように、反・前倒し派が過半数を占める。仮に前倒し総裁選が9月半ば頃に実施されるとしても、石破氏は政策継続を唱えて出馬する。決戦相手が高市早苗前経済安全保障相であれ、他の実力者であっても、再選される確率が高い。永田町では石破氏続投説が支配的になりつつある。
明らかに、お盆休み中の終戦の日を境に潮目が変わった。戦後80年の今年、東京・千代田区の武道館で行われた全国戦没者追悼式(8月15日)での首相式辞で、石破氏は13年ぶりに「反省」に言及した。「あの戦争の反省と教訓」という表現で使った。直前の広島平和記念式典(6日)と長崎平和祈念式典(9日)での首相挨拶では「核戦争のない世界」に踏み込んだ。一連の石破アピールは50~70歳代の世代、特に女性から圧倒的に支持されている。かつて「核兵器のない世界」という表現だったが、泥沼化するウクライナ戦争のなか、ロシアの戦術核兵器投入検討の報道が出始めてから核戦争の脅威にリアリティを覚える国民が少なくないと感知しているからだ。▶︎
▶︎一方、「石破降ろし」を巡り、自民党内の権力闘争が民放テレビ局のワイドショーでも大きく報じられるご時世である。映画「ドラえもん」の登場人物に喩えれば「のび太」が石破氏で、「ジャイアン」は追い落とし勢力という図式が、中高年女性有権者に深く浸透するのは判官贔屓であろう。例によってNHK(8月9~11日実施)、朝日新聞(16~17日)、共同通信(23~24日)3社の最新世論調査の結果から国民の石破首相(政権)評価の度合いをみる。以下は3社の平均値だ。内閣支持率:36.5%、首相続投賛成53.5%、自民党支持率24%。予想を遥かに超える高さだった。
そうした中で、「福岡三国志」と呼ぶべき政治的恩讐が、今回の「総裁選前倒し政局」の裏面でその影響が計り知れない要因となっている。福岡県選出の現職1人と元職2人の政治家、すなわち筑豊の麻生太郎元首相(現自民党最高顧問・84歳)、筑前の山崎拓元副総裁(88歳)、筑後の古賀誠元幹事長(85歳)である。麻生、山崎氏は天敵の関係、麻生、古賀両氏は犬猿の仲だ。敵の敵は味方の伝の通り、山崎・古賀連合は麻生氏の鉄槌から石破氏を防衛する対立構図にある。8月24日夜、石破氏主催の夕食会が東京・丸の内のパレスホテル内の日本料理店「和田倉」で催された。招かれたのは小泉純一郎元首相(83歳)、武部勤元幹事長(84歳)、そしてこの場をアレンジした山崎氏。首相最側近の赤澤亮正経済財政・再生相も陪席。起点は昨年5月に遡る。同14日夜、東京・銀座の有名料亭「新ばし 金田中」に先述の小泉、山崎、武部氏に亀井静香元政調会長(88歳)が加わり、この老人パワーが石破氏を招いた。セッティングはこれも山崎氏で、支払いが亀井氏。当時、すでに岸田文雄首相は退陣不可避とされ、「ポスト岸田」候補に耳目が集まっていた。そう、山崎氏後見人、小泉、亀井、武部各氏が介添えとして石破氏の総裁選5回目の挑戦を仕掛けたのである。老獪な山崎氏は動くときは隠密裏に且つ素早い。同月末には森山幹事長に引き合わせ、石破氏の裏選対作りに着手する。そもそも森山氏は小泉氏の郵政民営化に反対したため、05年9月の郵政解散では党公認が得られないどころか刺客を放たれた。何とか議席を維持できた森山氏は、後の安倍晋三政権下で復党を認められて山崎派に拾われた経緯がある。
すなわち、大恩人であり、党人政治家としての大先輩でもある。山崎氏は周辺に「石破?2年は持つ。いや持たせなければダメだ」と語っている。正直ベースで言えば、筆者には石破氏が大局的な視点から物事を見渡す政治家であると思えない。我が国の最高指導者に相応しい国家観をお持ちであると見受けられない。潮目が変わると見切れば、矢継ぎ早に首脳外交の日程を詰め込む。外交当局者もいたく感心している。山崎氏の「2年」という言葉が耳朶を打つ。嫌な予感がするのは筆者だけなのか。